飲み過ぎたとき、食べ過ぎたとき、ストレスを感じたとき、みぞおちがキリキリと痛むことがある。ありふれた症状の一つだが、ときに死に至る病気の予兆が潜んでいることがあるという。では、どのような症状のとき、救急車を呼ぶなど命を守る行動をとったらいいのか、専門家のアドバイスをまとめた。
Episode 突然、みぞおちに激痛! 原因は急性膵炎だった
食品会社の営業部に勤務するAさん(32歳)は、久しぶりに学生時代の仲間と飲むことになった。まずは焼肉屋でしっかり腹ごしらえをした後、なじみのカラオケスナックで飲んで、歌って、踊っての大騒ぎ。楽しい1日だったが、帰宅してすぐの午後11時半ころ、突然、みぞおち(上腹部)のあたりに強い痛みを感じ始めた。
Aさんは、もともと胃腸が丈夫でなく、日ごろから胃腸薬の世話になっている。そのときも「また飲み過ぎちゃったか」と思い薬を飲んだ。いつもなら30分ほどで効いてくるのだが、このときは痛みが短い間にどんどん強くなった。「額から脂汗をたらす」とは、まさにこのことだった。
ベッドに横たわり、2時間ほど背中を丸くして、ひざを抱えながら耐えていたが、痛みが治まる様子は全くない。それどころか痛みは背中にも広がり始めた。Aさんは「これは、いつもの胃痛ではない」と不安を感じ、すぐにスマホを手にとり救急車を呼んだ。
救急車で病院に運ばれるとそのまま緊急入院。救急病棟の医師の診察結果は「急性膵炎(すいえん)」だった。しかも、翌朝行われたCTスキャンなど精密検査の結果を示しながら担当医は「かなり重症化していた。治療が遅れると命を落とす人も少なくない」と話す。Aさんは「あのまま、がまんしていたら大変なことになっていた」と背筋が寒くなるのを感じた。
酒をたくさん飲む人はご用心

Aさんの命を奪いかけた急性膵炎とはどのような病気なのか。慶應義塾大学医学部医学教育統轄センター教授の鈴木秀和氏は「膵臓で作られている消化液である膵液が、なんらかの原因で逆流。膵液が膵臓そのものを溶かそうとしてしまったときに起こる」と解説する。膵臓の局所で起こる病気だが、比較的早期に全身の重要な臓器に障害を与え、腎不全などを引き起こすため、重症例の死亡率は高い。
初期症状は、みぞおちなど上腹部(*1)の痛みや不快感だ。鈴木氏は「軽症の場合は弱い腹痛を訴えるだけの場合もあるが、病気が進行すると、上腹部に激しい痛みを生じる。時間とともに痛みは背中に広がり、背中を丸めた『エビ形姿勢』をとるといくらか楽になる。吐き気を伴うことも多い」と話す。
では、急性膵炎はどんなとき発症するのか。膵液が逆流する原因の一つはアルコールの多飲だ。とくに、脂っこいものをたくさん食べた後、アルコールをたくさん飲むと、膵液が大量に分泌されたうえ、その出口に炎症が起こって膵液が流れにくくなることがある。このほか、胆石が原因のこともある。膵液の出口と胆汁の出口が一緒なので、ここに胆石が詰まると膵液が逆流してしまうのだ。
「普段から酒をたくさん飲む人、脂肪の多い食事が好きな人、肥満の人などで、突然、上腹部に激しい痛みを生じたら、急性膵炎を疑ってみる必要がある」と鈴木氏はアドバイスする。
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