私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、うつ症状や認知機能の低下が見られることがある「脳腫瘍」について。

Episode うつ症状に加え認知機能の低下も…意外な病名が明らかに
日用品メーカーの営業支援部門に勤務する福井一正さん(仮名:48歳)は、かつては全国の支社に名をはせた営業マン。内勤に替わった今も精力的に仕事をこなすことで周囲の評価も高かった。
その福井さんに異変が起きたのは昨年末のことだった。急に仕事の意欲が失われ、ふさぎこむことが多くなったのだ。しかも、これまでの福井さんでは考えられないような単純ミスで販促資材を誤発注し、それがきっかけで出社できなくなってしまった。
心療内科での診断はうつ病。抗うつ薬が処方され、一定期間休むことになったが、1カ月たっても症状は改善しなかった。さらに妻を不安にさせるような症状も出てきた。福井さんは、数時間前に話し合ったことを忘れたり、テレビのリモコンを間違えて操作するようになったのだ。
「ただのうつ病ではないかもしれない」と考えた妻が相談すると、医師は近隣の脳神経外科クリニックでのMRI検査を手配した。その結果は意外なことに、脳に腫瘍があることが分かった。
すぐに紹介状を書いてもらい大学病院で精密検査を行ったところ、脳の左前頭葉という領域にできた「グリオーマ(神経膠腫)」と診断された。そして驚く間もなく翌週には手術が行われた。「覚醒下手術」というもので、手術の途中で起こされ、医師からいろいろな質問をされながら手術が続けられたのを福井さんは覚えていた。
主治医は「手術は問題なく終わり、組織検査でグレード4の悪性腫瘍であることが分かりました。うつなどの症状だと脳腫瘍を疑いにくいので、MRI検査が遅れてしまうことも多いのですが、今回は早期に発見されてよかったです。治癒して元気に過ごされている患者さんも多いですよ」と話した。
福井さんは、その後、放射線治療と抗がん剤治療を受け、3カ月後には、外来で化学療法を続けながら職場に復帰することができた。以前と同じ仕事ができるようになり、また仕事ができることに喜びを感じた。症状の異変に気づいてくれた妻には深く感謝している。
※ 取材をもとに、実際にあったケースから創作したエピソードです。
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