私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回は、タバコを吸わない人でもなる肺がんである「腺がん」を紹介する。

Episode 非喫煙者の女性がまさかの「肺がん」
会計事務所の契約社員として働く塚田早苗さんの年齢は46歳。夫が50歳になったのを節目として、二人そろって人間ドックを受けることにした。検診のオプションメニューのなかで早苗さんがこだわったのは「胸部ドック」だ。
というのも夫は、結婚前までタバコを吸っていたうえ、現在でもときどき咳き込むことがあったからだ。肺がんの兆候があるならば、なるべく早期に発見したいと思っていた。
検診当日、胸部ドックで行われたのは一般的な胸部エックス線検査や痰の検査(喀痰細胞診)ではなくて「低線量CT肺がん検査」というものであった。検診医の説明によると、従来のエックス線検査の10倍の肺がん発見率であるうえ、患者が受ける被曝量も通常のCTより少なくなっているという。
予定していたすべての検査を終え、1週間後、検査結果の説明を受けに行った塚田さん夫婦。夫の胸部ドック検査が気になっていた早苗さんだが、検診医の説明は全く予想外のことだった。
「夫の画像には気管支拡張症の兆候などが見られますが、肺がんの兆候はなし。それに対して早苗さんの肺の画像には、すりガラス陰影とよばれる淡い影がみられ、肺がんのなかの腺がんの可能性があります」と検診医は説明した。
その後、早苗さんは大学病院の呼吸器内科で気管支鏡生検などの精密検査を受けたが、その結果はクロ。「肺の腺がんで進行度(ステージ)はIA期」だという。
血の気が引く思いで説明を聞いた早苗さんだったが、担当医は「ごく初期の段階で発見できてよかったです。腺がんは喫煙歴とあまり関係なくできるがんですが、ほかの肺がんと比較して治療成績が良いのが特徴です。体の負担の小さな手術でがんを取り除けば、5年生存率は90%以上。ほぼ治るがんと考えていいでしょう」と話した。
ひと安心した早苗さん。その後、医師と相談の上、1週間ほどの入院で手術治療を受け、無事退院した。そして「いいタイミングで胸部ドックを受けることができて本当にラッキーだった」と話している。