私たちの体は異変を生じたとき、さまざまなサインを発する。それは、痛み、吐き気、出血などの自覚症状のこともあれば、健康診断の検査結果に表れることもある。このような体から得られる情報をどう理解するかが健康を守るために重要だ。今回のテーマは、破裂すると命を失う危険性が高い「大動脈瘤」について。

Episode 脊柱管狭窄症の治療も効果なし、実は大動脈瘤だった
自動車部品メーカーに勤務する玉田幸一さん(仮名)は、今年64歳になる。勤務先には65歳以上も働くことができる制度があるが、元気なうちに退職し、新しいことにチャレンジしようと思っている。
「幸い体調に不安はなし」と言いたいところだが、腹囲は約90cm、血圧高め(健康診断での最高血圧が145mmHg)、軽度の脂質異常症と診断され、治療薬を飲み始めるなど、典型的なメタボ体質だ。
健康づくりもセカンドライフの目標の一つと思う玉田さんだったが、半年前から腰痛に悩まされるようになった。腰痛持ちの同僚から紹介されたマッサージにも通ったが効果なし。整形外科で加齢による腰部脊柱管狭窄症と診断され、治療を受けたがやはり効果はなかった。
精密検査のためCT検査を受けたところ、そこで見つかったのは意外な病気だった。お腹の真ん中を通る太い血管である腹部大動脈がコブのように膨らむ「大動脈瘤」が見つかったのだ。
新たに担当医となった血管外科の専門医は、「動脈瘤の大きさは直径5.5cmと大きく、周囲の腰椎や神経を圧迫することで腰痛の原因になっていました。この大きさでは突然破裂し、命を失うリスクもあります。積極的な治療を勧めます」と説明してくれた。
たかが腰痛と侮っていたが、そこに命に関わる病気が潜んでいたとは……。驚いた玉田さんは医師と何回も話し合い、2週間後に入院し、動脈瘤の治療を行った。治療法は「ステントグラフト内挿術」というもので、足の付け根からカテーテルを挿入し、血管の内側から動脈瘤の治療を行う方法だ。
退院後は血圧管理をしっかり行い、定期的な検査を受けるなどいくつかの注意点はあるが、日常生活には大きな支障がないという。「これで安心して第二の人生に進むことができる」と玉田さんは大病に気づくきっかけとなった腰痛に感謝したいぐらいだという。
※ 取材をもとに、実際にあったケースから創作したエピソードです。