「前立腺肥大症でPSAが上がってきた」読者の悩みに名医が回答!
日本大学医学部泌尿器科学系主任教授・高橋悟先生(後編)
伊藤和弘=フリーランスライター
「健康Q&A」では、日経Goodayの連載や特集でおなじみの医師や研究者、アスリート、トレーナーなど、健康・医療のエキスパートの方々が月替わりで登場。あなたの疑問やお悩みに答えます。
今月の回答者は、天皇陛下の前立腺がんの手術にも参加し、「頻尿」や「前立腺」の記事で日経Gooday読者にもおなじみ、日本大学医学部泌尿器科学系の高橋悟主任教授です。前編、中編に引き続き、後編では「膀胱炎」や「前立腺がん」などに関する読者からの質問に答えていただきました。
日本大学医学部泌尿器科学系主任教授・高橋悟先生Q&A
Q 1
Q 2
夜、1時間ごとにトイレで目が覚めてしまう。どうすれば治る?(前編)
Q 3
Q 4
急に強い尿意をもよおし、チャックを開ける前に漏らしてしまう(中編)
Q 5
Q 6
Q 7
Q 8
Q 9
Q10
編集部 次の質問は、60代の男性から、前立腺肥大症とPSA(前立腺特異抗原)に関する内容です。
前立腺肥大で、PSAの数値が徐々に上がってきた
10年近く前に腹部超音波検査で前立腺の肥大が見つかりました。それ以来、定期的に泌尿器科でPSAを調べています。2012年は4.3でしたが、2018年8月には7.0になっていました。なお、2017年にミュラー管のう胞も見つかりました。今のところ治療らしいことは何もやっていないのですが、このまま定期検診だけ続けていっても大丈夫でしょうか? (60代男性)

編集部 まず、ミュラー管のう胞というのは何でしょうか?
高橋 ミュラー管というのは、胎生期に男と女に性分化していくときに女性の生殖器になる部分なんですよ。男性の場合はやがて退化して消えてしまうんですが、それがのう胞状になって前立腺に残ることがあります。それをミュラー管のう胞というんですが、よほどのことがない限り害はありません。あまり気にする必要はないです。
編集部 分かりました。では本題のPSAの推移についてご意見を聞かせてください。詳しい数値は、2012年が4.3(ng/mL)、以後、5.7、6.9、6.8、6.1、6.7、6.9と推移して2018年8月に7.0だったそうです。PSAは、前立腺肥大だけでなく、前立腺炎や前立腺がんでも上がりますので、この方もそこが心配なのかもしれません。
高橋 PSAの数値をみたところ、上がったり下がったりしている感じなので、お腹の外側から超音波を当てる通常の腹部エコーではなく、直腸の中から超音波を当てる経直腸式のエコーか、MRI(磁気共鳴画像)の検査を受けて、前立腺がんがないか調べてください。がんが確認できなければ、このまま経過観察でもいいかもしれません。
この方は症状がなくてPSAが高いだけのようですね。前立腺肥大症はQOL(生活の質)の病気なので、肥大していてもQOLに問題がなければ放っておいても構いません。ただ、がんとなると話が違ってきます。
前立腺が肥大しているわけですし、試しにアボルブ(一般名:デュタステリド)という薬を飲んでみてもいいかもしれません。アボルブを半年以上飲むと、前立腺の体積が減り、前立腺の血流障害も改善して炎症がおさまるので、PSAも下がります。7(ng/mL)だった場合、だいたい3.5くらいになります。もし、下がり方がそこまでいかない、例えば5か6くらいまでしか下がらない場合、前立腺がんの可能性が出てきます。