「計算能力の衰え、大丈夫?」「怒りっぽくなった」 読者の悩みに回答!
東北大学加齢医学研究所教授・脳医学者の瀧靖之先生(前編)
田村知子=ライター
「健康Q&A」では、日経Goodayの連載や特集でおなじみの医師や研究者、アスリート、トレーナーなど、健康・医療のエキスパートの方々が月替わりで登場。あなたの疑問やお悩みに答えます。
2021年2月の回答者は、東北大学加齢医学研究所教授で、脳医学者としてこれまで約16万人もの脳のMRI画像を読影・解析してきた瀧靖之先生です。
東北大学加齢医学研究所教授・脳医学者の瀧靖之先生 Q&A
Q 1
Q 2
Q 3
Q 4
Q 5
Q 6
Q 7
仕事以外での会話が少ない生活。認知症にならないか心配です(中編)
Q 8
もの忘れが多くなってきたので「脳トレ」をやったほうがいい?(中編)
Q 9
もの忘れをした時には、あきらめずに思い出す努力をすべき?(中編)
Q 10
Q 11
脳の機能低下を抑えるためにとるといい栄養や食事法は?(後編)
Q 12
Q 13

編集部 瀧先生には日経Goodayの2020年11月の特集「脳医学者が指南! オトナの『脳力』の高め方」で全3回にわたり、大人の脳の特性や、年齢を重ねても健康な脳を維持する秘訣を解説していただきました。本特集は人気記事ランキングの上位を独占するほどの反響があったことから、今回の「健康Q&A」で再登場をお願いしました。
そんな瀧先生に向けて読者からの質問を募集したところ、ここでは紹介しきれないほどたくさんの質問が寄せられました。そこで今回は代表的な質問を厳選。前編・中編・後編の3回に分けて、瀧先生の回答をお届けします。瀧先生、どうぞよろしくお願いいたします!
瀧 たくさんの質問をいただき、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。
編集部 では早速、最初の質問です。
集中力を高めるにはどうすればいい?
新聞や本を読む際に集中できず、目で文字を追うだけで内容が頭に入ってこないことがよくあります。集中力を高めるにはどうしたらよいでしょうか。(52歳男性)
編集部 「目で文字を追うだけで内容が頭に入ってこない」時には、脳がどのような状態になっているのでしょうか。
瀧 ご相談者がおっしゃっているように、目の前のことに集中できず、注意が散漫になっている状態ですね。そのせいで、様々な思考が浮かぶなどして、内容が頭に入ってこない。集中したい時には雑念を振り払おうとする人が多いと思いますが、そうした「一時しのぎ」的な策よりも効果的なのは、運動をすることです。
編集部 運動とは意外ですね。なぜ、運動をすると集中力が高まるのでしょうか?

瀧 運動をすると、注意力や集中力に関わる神経伝達物質のバランスが整うからです。
編集部 神経伝達物質は、脳の神経細胞同士をつないで情報のやりとりを行うために必要な物質ですね。注意力や集中力に関わる神経伝達物質にはどんなものがあるのでしょうか。
瀧 特に重要なのは、集中力や意欲、幸福感をもたらす「ドーパミン」という物質で、不安や抑うつ気分に関わる「ノルアドレナリン」や「セロトニン」も三位一体となって作用します。また、これらの神経伝達物質の働きを調整する役割を果たす物質もあります。情報伝達を促進するのが「グルタミン酸」で、抑制するのが「GABA(ギャバ)」です。グルタミン酸はいわばアクセルの役割、GABAはブレーキの役割ですね。
運動をすると、このアクセルとブレーキがバランスよく働くことで、例えばドーパミンが不足している場合は増やして、過剰になっている場合は抑えるようにして、脳の働きを最適化するといわれています。
編集部 どの程度の運動をするといいでしょうか。