前回の「最近つまずきやすくなったのは、筋肉が発しているSOSだった」では、健康長寿のためには、越えなければいけない「2つの壁」があることをご紹介しました。1つは、中年期の肥満やメタボリックシンドロームの放置によって脳卒中や心筋梗塞の発症につながる「60代の壁」。もう1つは、60代の壁を越えた後、サルコペニア(加齢に伴う筋肉量の減少)の放置によって転倒・骨折やフレイル(虚弱)の問題につながる「70代の壁」です。
70代の壁の原因となるサルコペニアとは、加齢とともに筋肉量が減少していく状態のことですが、今回はこのことについてもう少し詳しく考えていきましょう。
人は、眠っている時やじっとしている時にもエネルギーを消費しています。これを基礎代謝といいます。基礎代謝の約2割は骨格筋(体を動かす筋肉)で行われています。体を動かさないでいると、骨格筋が減ってきますので、基礎代謝も落ちてきます。すると、それまでと同じ量の食事をとっていても、エネルギーとして消費されなかった分は脂肪として蓄積されていくことになります。
筋肉量が減少して一定基準を下回り、かつ、BMI(体格指数)が25以上の肥満になると、「サルコペニア肥満」と呼ばれる状態になります。
「サルコペニア肥満」の基準
次の2つの条件の両方に該当すればサルコペニア肥満となる
1 体重当たりの骨格筋量の割合(筋肉率)が、男性で27.3%未満、女性で22.0%未満
2 BMI[体格指数:体重(kg)身長(m)2]が25以上
みなさんもうよくご存じだと思いますが、肥満に加えて高血圧、高血糖、脂質代謝異常の3つのうち2つ以上がそろえばメタボリックシンドロームと診断され、脳卒中などの脳血管疾患、心筋梗塞などの心疾患を発症するリスクが高くなります。これだけでも怖いことですが、そこへ筋肉量が減少するサルコペニアが進んでくると、筋力が低下するために体を動かしにくくなり、不活動(不活発な状態)になり、それがさらなる筋肉量の低下を招く、という悪循環に陥ります。その状態で転倒や骨折でもしようものなら、要介護や寝たきりにつながる恐れも高まります。
つまり、サルコペニア肥満になると、サルコペニアによる転倒・骨折などのリスクと、メタボや肥満による生活習慣病のリスクの両方を併せ持つことになり、メタボよりもさらに危機的状況に陥ってしまうのです(図1)。しかも、私たちの研究で、サルコペニア肥満では、単純な肥満よりも高血圧や糖尿病のリスクが高くなることが分かっています(*1)。