この連載の第7回「『肉より野菜』では筋肉は増やせない」では、運動習慣と上手な食事のとり方が、健康長寿に相乗効果をもたらすことをお話ししました。
実は、健康長寿の実現のためには「運動」と「食事」に加えてもう1つ、大切な要素があります。それが、前回「認知症予防には『脳トレ』より『筋トレ』!」の最後で触れた「社会参加」です。この社会参加は、「自分の所属するコミュニティで何らかの役割を担ったり、人との交流を持ったりすること」と言い換えることができます。
「人生100年時代」といわれる現代は、60代で会社や仕事をリタイアしても、その後の人生が30年以上も続いていきます。その長い期間に、配偶者に先立たれるなどして、1人で暮らすようになる人も増えてきます。そうなったときに、自分の住むコミュニティに積極的な関わりを持っているかどうかが、健康寿命に大きな影響を及ぼすのです。
社会とのつながりのない生活は健康寿命を縮める
筋力トレーニングと有酸素運動を習慣にして、栄養と摂取カロリーのバランスを工夫した食事をとりながら下半身の筋力を維持・強化していけば、高齢になっても活動的な生活を送れるということは、これまでにお話ししてきました。
筋力が低下してしまうと、疲れやすくなったり、歩くのがおっくうになったりすることで、外出を避けるようになっていきます。すると、ますます筋肉が痩せ細り、いわゆるひきこもりの状態になりやすくなります。
自宅にひきこもりがちな生活になれば、外出で体を動かしたり、人と会って話をしたりする機会が少なくなり、うつ傾向が高まります。そうなると、いろいろなことが面倒になり、特に1人暮らしの場合は、食事もおろそかになっていきます。
料理をするのがおっくうで、同じメニューを延々と食べ続けたり、インスタント食品ばかり食べるようになったりすると、栄養が不足、あるいは偏って、健康寿命を縮める要因になります。また前回、運動不足は認知症の強力なリスク因子だとお話ししましたが、うつはそれ以上に強力な認知症のリスク因子だということも、さまざま研究から示唆されています。
こうした悪循環は、社会参加の機会がないと、さらに拍車がかかっていきます。

元気に仕事をしているうちは、そこまで切実に社会参加の必要性について考えられないかもしれません。企業では、役職定年を迎える50代後半の従業員を対象に、定年退職に備えた研修やセミナーを行うことが多いようです。ですが、その段階から考え始めるのでは遅いと私は考えています。会社などの組織を離れてからも、社会や人とのつながりを持ち続けるためには、現役のうちから地域のコミュニティと関わっておくことが大切です。