中性脂肪値を上げるのは油ではなく炭水化物
第6回 肥満かどうかで実は違う!中性脂肪値の下げ方
村山真由美=フリーエディタ―・ライター
佐々木:アルコールの影響は食事ほどにはまだ確かではないとする考えもありますが、炭水化物と同様に肥満を介さないルートでも中性脂肪値を上げると考えられています。
飽和脂肪酸は必須栄養素ではない
編集部:前回「コレステロール値が気になる人は揚げ物や肉を控えるべき?」から2回にわたり、油と脂質異常症の関係について解説していただきましたが、まとめると以下のようになります。
(1)肉や乳製品に含まれている飽和脂肪酸や、食品に含まれているコレステロールは血中総コレステロール値を上げる。
(2)日本人がよく使う植物油に含まれている多価不飽和脂肪酸は血中総コレステロール値を下げる。
(3)中性脂肪値を上げるのは脂質ではなく炭水化物やアルコール。
(4)炭水化物、脂質、たんぱく質、アルコールの過剰摂取による肥満は中性脂肪値を上げる。
意外だったのは(2)と(3)です。脂質異常症がある人は「油を控えなきゃ」と思いがちですが、油=悪者とは一概にはいえないのですね。
佐々木:油には大きく分けると飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2種類があります。この2つは体内での働きが違い、別の栄養素といってもいいほどです。飽和脂肪酸は主に体にエネルギーをためておくタンクとしての役割を担っているのに対し、不飽和脂肪酸は細胞膜を構成する材料になったり、体の様々な機能を調節するプロスタグランジン[注5]などの材料として使われたりします。
編集部:どちらも必要な栄養素なんですよね?
佐々木:いいえ。飽和脂肪酸は必須栄養素ではありません。不飽和脂肪酸は必須栄養素です。
編集部:え? では、飽和脂肪酸はとらなくてもいいのですか?
佐々木:はい。理論的にはそういえます。仮に食事で摂取する飽和脂肪酸をゼロにしても、必要な皮下脂肪や内臓脂肪は体内で合成されるので、あえてとる必要はないというわけです。一方、不飽和脂肪酸は必須栄養素なので一定量をとる必要があります。しかも、とり過ぎても原則的には害がありません。ただ、いずれの脂肪酸も高エネルギーなので、とり過ぎると肥満につながるということだけは覚えておきましょう。
編集部:飽和脂肪酸はとらなくていい栄養素だとしても、肉を一切食べないというのは現実的ではありませんよね。たんぱく質がとれないですし……。
積極的にとるべきは「魚」
佐々木:その通りです。そもそも、肉を完全に除去しても、飽和脂肪酸ゼロの食事というのは成り立ちません。なぜなら、植物油は複数の脂肪酸から構成されていて、飽和脂肪酸も含まれているからです(前回記事「コレステロール値が気になる人は揚げ物や肉を控えるべき?」参照)。また、不飽和脂肪酸が豊富な魚の油にも飽和脂肪酸は含まれているのですよ。
編集部:ということは、必須栄養素をとるために植物油や魚を食べると、意識しなくても飽和脂肪酸はとれてしまうということですね。
佐々木:そうです。だから、あえて意識してとる必要はないのです。肉は重要なたんぱく質源ですが、肉に含まれている飽和脂肪酸はあえてとらなくてもいいものです。であれば、肉は食べ過ぎてはダメだということが分かりますよね。
編集部:そうですね。肉は量をとり過ぎない、脂肪の多い部位を避ける、肉を食べる回数を減らして魚を食べる回数を増やすなどで、たんぱく質はキープしつつ、飽和脂肪酸の摂取量を減らすことはできますね。
佐々木:一方、植物油や魚の油に含まれている不飽和脂肪酸は必須栄養素なので一定量をとる必要があります。魚や揚げ物、サラダのドレッシングなどは控えることはありません。ただし、適正エネルギーの範囲内でなら、です。
編集部:「●●に含まれている▲▲はコレステロール値を下げる」「●●という食べ方は中性脂肪値を下げる」「▲▲という油は太らない」などの新しい情報に接すると、つい飛びつきたくなってしまうのですが……。
佐々木:「飽和脂肪酸は必須栄養素ではなく、不飽和脂肪酸は必須栄養素である」ということ、「どんな油もとり過ぎれば肥満につながる」ということを踏まえれば、その情報を取り入れるべきか否かを判断することができます。
編集部:情報に踊らされないためには、正しい栄養学の知識を身に付け、自分の頭で判断することが大切なのですね。ありがとうございました。
(ライター 村山真由美 作図 増田真一)
データで見る栄養学
東京大学大学院医学系研究科 社会予防疫学分野教授・医学博士
