怖い浴室~平幹二朗さん急死の報に接して
冬場はヒートショック現象で血圧が乱高下の恐れ
榎木英介=近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医
舞台俳優として、そして大河ドラマなどお茶の間の顔として長らく第一線で活躍された俳優の平幹二朗さんが、2016年10月23日、急死した。享年82歳。風呂場で亡くなっているのが発見されたという。連続ドラマ出演中の急死ということで、ご家族、関係者の皆さんのショックはいかばかりかとお察しする。
私にとっては、平さんといえば大河ドラマの印象が強い。ちょうどNHK BSでアンコール再放送中の「武田信玄」(1988年)で武田信虎役を演じられているのを見ていた日の訃報で、なおのこと驚きは大きかった。心よりご冥福をお祈りする。
浴室で突然死する人は年間1万9千人

平さんは、自宅を訪れた息子の平岳大さんに、浴槽で倒れているのを発見されたという。現時点で死因は不明だ。
普段の健康状態は良好だったというから、突然死だったと思われる。突然死の原因には急性心筋梗塞や大動脈破裂、脳出血や脳梗塞、くも膜下出血、不整脈、てんかん、喘息発作などがあるが、持病がないと思われることから、おそらく、心臓や血管が原因だったものと考える。
死因を推定するうえでキーとなるが、浴槽で倒れていたという報道だ。入浴中に死の原因となる何らかの病気が急に発症したのだろう。
実は浴室での突然死は、「ヒートショック現象」とも呼ばれ、恐れられている。
「ヒートショック現象」とは正式な医学用語ではなく、建築や住宅メーカーで使われている用語だ。寒暖の差が激しい環境に置かれると、血圧が急変し、心筋梗塞や大動脈解離、脳出血などが引き起こされるというものだ(関連記事:「怖い入浴中の突然死、ヒートショックはなぜ起こる?」)。
私が病理解剖したケースのなかにも、この「ヒートショック現象」が原因だったケースがある。冬になると、急性心筋梗塞や大動脈解離による死が原因で解剖させていただく方が増える。冬の冷え込んだ朝に、
「今日は大動脈解離の解剖があるかもなあ」
と思ったところ、実際に大動脈解離で亡くなった方がいて、解剖をさせていただくことになったという経験がある。
特に浴室は要注意だ。浴室はただでさえ中と外の寒暖の差が大きいうえ、日本では肩まで熱い風呂につかる。さらに、日本の家屋は欧米のような全館暖房が一般的ではないため、冬場の脱衣所は気温がかなり下がりやすい。
10月23日の東京の最低気温は14.7℃と、このところ冷え込みを感じつつあった。あくまで推定ではあるが、急な冷え込みが浴室内外の室温の差を拡大させ、まだ寒さに慣れていない平さんの血圧が急激に上昇したのかもしれない。
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