「膵がん、肺がんは予後不良」─がん登録2014年集計が突き付ける「ある日突然進行がん」という現実
榎木英介=近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医
やや旧聞になるが、9月26日、国立がん研究センターから「がん診療連携拠点病院等院内がん登録2014年集計」という統計資料が発表された。この資料は、全国の「がん診療連携拠点病院」(*1)から収集されたもの。「(1)各がん種、進行度、その治療の分布を把握し、国や都道府県のがん対策に役立てる、(2)各施設が全国と比較した自施設のがん診療状況を把握し、がん診療の方向性等を検討する、ことを目的」として集められた。
この資料から読み取れるのは、がんの中には発見された時点で既に転移があるなど、進行している可能性が高いがんがあるという厳しい現実だ。他の臓器に転移がある「ステージIV」の状態で発見される割合は、膵がんは44.9%、肺がんは39.2%にも達する。この2つのがんは特に早期発見が難しいということが、データで裏付けられたのだ。
膵臓は体の奥深くにある
膵がんと言えば、今年7月31日に亡くなった九重親方(元横綱・千代の富士、本名=秋元貢さん)のことが思い浮かぶ。61歳の若さだった。
小兵ながら強敵を投げ飛ばす千代の富士の姿は、私たち40代の脳裏にはっきり残っている。貴花田(当時)に負け、潔く引退したその去り際も素晴らしかった。そんな最強の力士の命を奪ったのが膵がんだったのだ。

膵臓は、消化酵素が含まれる膵液を分泌したり、血糖値を下げるインスリンを分泌するなど、私たちが食べ物から栄養をとるために不可欠な役割を果たす。
膵がんが見つかりにくい理由は、症状がなかなか出ないからだ。それは膵臓の解剖学を知れば理解しやすい。
膵臓は体の奥深くにあり、体の表面から触れることはできないし、胃や腸のようにカメラで見ることもできない。また、腫瘍細胞そのものや、腫瘍による出血が、体の外に出てくることも少ない。腫瘍が膵液を通すくだ(膵管)を塞いだり、十二指腸に顔を出したりすれば、出血や黄疸などで気が付けるものの、その時点でがんは相当進行している。
私が解剖させていただいた患者さんの中にも、解剖して初めて進行した膵がんが明らかになったケースが幾つもある。ご本人が気付かない間にがんが広がり、それが命を奪う原因の一つとなったのだ。