発端は関空、繰り返される「はしか」集団感染をどう防ぐか
榎木英介=近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医
8月14日、千葉県の幕張メッセ。アメリカの人気歌手ジャスティン・ビーバーのコンサートが行われた会場に一人の男性が現れた。年齢は19歳。その男性の全身には発疹があった…。
男性がはしか(麻疹)に感染していることが分かったのはコンサート5日後。はしかは免疫を持たない人がウイルスに曝露された場合、95%が発症するという強い感染力を持つ。教室のような閉鎖された場所に1人患者がいるだけで、10人が感染するという。インフルエンザの5倍から10倍もの感染力を持つ、はしかのウイルスを撒き散らす患者が、多数の若者がいるコンサート会場にいたことが何を意味するか。医療関係者ならずとも分かるだろう。
だが、事態は予想外の展開を見せる。8月23日に男性が住む兵庫県西宮市がこのことを発表したのち、最初にはしかの集団感染が報告されたのは、千葉県でも兵庫県でもなかった。場所は関西国際空港。8月30日、関空で働く複数の従業員がはしかを発症したことが公表された。
千葉と関空…この2つをつなぐのは、ジャスティン・ビーバーのコンサートに参加した19歳男性と、関空のはしか集団感染の発端となった従業員がどちらも、7月31日に関空に滞在していたことだ。ほかに、この日に関空にいた少なくとも2人がはしかを発症したことも確認された。
7月31日に関空にいた4人のはしか患者で、ウイルスの型は一致している。となると、7月下旬に外国からはしかウイルスが関空経由で持ち込まれ、空港内で感染が広がったと思われる。
感染の拡大は続き、感染した医師も出た。当分感染は広がるだろう。
はしかの病理組織学─多核巨細胞と封入体

はしかはパラミクソウイルス科の麻疹ウイルスが原因の感染症だ。ウイルスは空気に漂い、口や目の結膜から体内に取り込まれる。ウイルスは肺や目の結膜に付着し、そこで増殖し、リンパ管を通じて全身に広がっていく。免疫を担うTリンパ球を4~6週間攻撃し続ける。全身のリンパ節にはウイルスに感染したことを示す、核を多数持つ巨大な細胞(多核巨細胞)が出現する。細胞の核の中に「封入体」と呼ばれる袋を持つのも特徴だ。封入体の中にはウイルスが詰まっている。