がん? がんでない? は「見た目が9割」!
病理診断の知られざる秘密
榎木英介=近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医
人は見た目で決まる、とよく言われる。身なりや身だしなみ、ちょっとしたくせや話し方で、その人物が信頼に値するのか、育ちはいいのか、お金があるのかが値踏みされてしまう。美男美女はそうでない人より出世が早い、などという話もあって、なかなかシビアな問題だ。
私たち病理医も「見た目」で勝負する。
ヨレヨレの汚れまくった白衣。いつの時代か分からないダサダサな服。ボサボサの髪…。大学の同窓会の集合写真を見ても、誰が病理医かは一瞬で分かる…。

っていう話ではない。私たちは顕微鏡で組織の標本を見ることで、これががんかがんでないか、などの「病理診断」を行う。まさに見た目勝負の世界なのだ。
多くの病気は、「秒殺」できる。これは〇〇がん、これは感染、とすぐ分かる。病理学の教科書や参考書に出ている写真は、まさに典型中の典型例が選ばれている。だから、病理診断なんて簡単で楽な仕事だ…。ちょっと病理診断をかじった程度の人がそう思ってしまうのも無理はない。
甘い。甘すぎる。
おそらく、どの世界でも同じだと思うが、一見簡単そうだが、経験を積めば積むほど奥深さが見えてくる。