永六輔さんの命を奪った「高齢者の肺炎」にどう向き合うか
榎木英介=近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医
高齢者が肺炎を患いやすいわけ
高齢者が肺炎にかかりやすい理由は、2つある。
1つ目の理由となるのは、加齢に伴う免疫力の低下だ。若いときなら耐えられた感染症が、高齢者にとっては生命を脅かす原因となり得る。インフルエンザを例に考えよう。若いうちは高熱にうなされても、1週間休めばなんとか回復できるものだが、高齢者はそうはいかない。先の調査によると、2014年にインフルエンザで亡くなった人は1130人だったが、うち80歳以上の高齢者は722人と64%に達する。
近年、抗生物質が効かない耐性菌の存在が大きな問題となりつつある。耐性菌による肺炎も増えており、免疫力が弱った高齢者にとって、より脅威となる可能性が高い。
もう1つは、嚥下力、飲み込む力の低下だ。
水分や食べ物を飲み込むとき、私たちののどは巧妙な動作を行う。かみ砕かれた食物をひとまとめに集め、丸め、食道に送り込みつつ、肺に向かう気管にふたをして、ものが気管、肺に入らないようにする。
加齢とともに、この「飲み込む」という動作がうまくいかなくなることが多い。飲み込みに関係する筋肉の力が弱まり、気管にきちんとふたができなくなったり、うまくものを食道に送り込めなくなってしまう。
特に、上体を起こせず、寝たきりになっている状態は要注意だ。横になったままでは、食べ物が口の中にいる細菌と一緒に気管を通って肺にまで達してしまうことがある。「嚥下性肺炎」を起こしやすくなるのだ。
高齢者の肺炎死は「大往生」
どんな人でも死ぬ。これはゆるぎない事実だ。死の直接的な原因が肺炎だというのは、たとえ老衰でも起こりうる。いわば自然な死なのかもしれない。私の曾祖母は104歳で亡くなったが、やはり死因は嚥下性肺炎だった。
しかし、防げるものなら防ぎたい。少しでも健康で長生きするためには、免疫力と嚥下力の低下を抑えておきたい。そのためには、栄養をよく摂り、食べ物をよく噛み、嚥下力の低下を可能な限り抑えるための体操をし、そして口の中を清潔にすることが重要だ。
私たちにとって身近な、高齢者の肺炎…この問題をあらためて考えさせてくれた永さんのご冥福をあらためてお祈りしたい。浅田飴でのどを潤しながら。
関連記事
近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医
