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榎木英介の「病理医の視点」

18歳アイドルの突然死事例にみる死因特定の難しさ

事務所発表の死因「致死性不整脈の疑い」が意味するもの

 榎木英介=近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医

死因究明に関心を

 多くの人が死因の特定が難しいことを知らないのは、当然なのかもしれない。病気で亡くなる人を解剖する病理解剖は年間1万件程度。犯罪の可能性がある遺体を解剖する司法解剖、遺族の承諾で行う承諾解剖、死因が分からない遺体を監察医が解剖する行政解剖をあわせても、解剖される人は年間の全死者129万人のうちの2~3%にすぎない。

 多くは体の外からご遺体をみて死因を決めているのみで、間違っていることも多々あるだろう。

 作家の海堂尊氏は、こうした状況を「死因不明社会」と呼んでいる。隠された病気が見逃されたり、犯罪が見逃されたりする状況は、人々の安全にとって脅威だといえるが、そもそもそれが脅威だという認識は乏しい。

 松野さんの死をめぐる憶測は、こうした死因究明に対する人々の認識の程度を露呈したといえるだろう。

 残念ながら、医療において死は敗北とみなされ、死んだ人間に予算や人材をかけるくらいなら、生きた人を助けたほうがよいという医療関係者は多いだろう。しかし、診断や治療の質のチェックがなければ、医師の技量は向上しないし、医療の発展はないだろう。

 日本を含め、東洋では遺体を解剖されることに抵抗感がある人が多いという。病魔に苦しんだ身内を切り刻まれたくない、と言えば、多くの人が納得するだろう。これは、「千の風になって」遺体から魂が抜けていったあとは抜け殻とする西欧各国の死生観とは異なる。

 こうした死生観を大切にしつつ、死因究明をするには、死亡時画像検索(Ai)(*1)ももっと活用されるべきだろう。解剖する、しないの二者択一ではなく、たとえ解剖しなかったとしても、各科の医師が集まるカンファレンス(M&M(mortality & morbidity)カンファレンスと呼ばれる)ももっとやるべきだろう。

*1 死亡時画像検索(Ai):CTなどの画像診断装置を使って亡くなった方の画像を撮影することを通じ、解剖をせずに死因を検索する手法。

 今後、松野さんのような志半ばでの若い死を防ぐためにも、医療における死因究明にもっと光が当たらなければならない。

榎木英介(えのき えいすけ)
近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師・病理医
榎木英介(えのき えいすけ) 1971年横浜市生まれ。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒、神戸大学医学部医学科卒。神戸大学医学部附属病院、兵庫県赤穂市民病院などを経て、近畿大学医学部附属病院臨床研究センター講師(病理学教室、病理診断科兼任)。病理専門医、細胞診専門医。著書に『嘘と絶望の生命科学』 (文春新書 986)、『医者ムラの真実』(ディスカヴァー携書)、『わたしの病気は何ですか?――病理診断科への招待』(岩波科学ライブラリー)などがある。

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