脳卒中は、発症直後の急性期と、症状が落ち着いてからの回復期で、病像が全く異なる病気だ。治療の面でも、急性期はまず救命を目指すのに対して、回復期以降は体の機能障害をより回復させる「リハビリテーション」が中心になる。この分野に今、これまでの常識を覆す革命的なリハビリ技術が登場し、注目を集めている。
現在、日本人の死因トップ3は「がん」「心疾患」「肺炎」だ。この3つの病気の死亡率が、過去数十年にわたって増え続けているのに対し、1950~70年代ころにトップだった「脳卒中」の死亡率は減少の一途。2011年には肺炎と入れ替わって4位まで下がった。
脳卒中はもはや過去の病気なのか? いや、違う。寝たきりになる原因では、脳卒中は認知症や老衰、骨折などを抑えてトップなのである。少子高齢化が進む日本において、脳卒中は、より現代的なスタイルの脅威をもたらしているのだ。
「救急医療の進歩で、命を救えるケースは増えました。その分、救った後の医療の重要性が高まっているのです」。東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座主任教授の安保(あぼ)雅博氏はこう指摘する。

「救った後の医療」とは、機能回復訓練、つまりリハビリテーションのことだ。脳卒中になった人は、脳の一部がダメージを受け、麻痺や言語障害が起きることが多い。そこからの回復を図るのが「脳機能リハビリテーション」、通称「脳リハ」だ。04年に脳梗塞で倒れたミスタープロ野球、長嶋茂雄氏のその後の回復ぶりを通じて、脳リハという医療を知った人も多いと思う。
安保氏は、長嶋氏の脳リハを支える医療チームの一人。そして、いま安保氏が中心になって推進している新しいリハビリ技術が「TMS」だ。ダメージを受けた脳を磁気で刺激し、リハビリ効果を飛躍的に高める。発症から時間が経った患者でも回復を見込めるのが大きな特徴で、発症後10年以上になる長嶋氏も取り入れ、成果を上げているという。