日本皮膚科学会が2010年に策定した最新の「円形脱毛症診療ガイドライン」で、現行の治療法では最も高い推奨度B(行うよう勧められる)とされた「局所免疫療法」。特殊な薬剤を頭皮に塗ってかぶれを起こし、発毛を促すこの治療法は、脱毛の範囲が頭部全体の25%以上を占める重症の円形脱毛症でも、半数以上の人で発毛が認められるなど高い発毛実績が示されている。
円形脱毛症は、ある日突然、円形や楕円形に頭髪が抜ける病気だ。脱毛の範囲が狭い軽症の円形脱毛症の場合、多くは半年ほどで自然に治る。しかし、頭髪全体が抜け落ちる「全頭型」など重症の円形脱毛症の場合、塗り薬や内服薬などによる治療では、なかなか効果が得られない。このような重症例への治療の切り札となるのが「局所免疫療法」だ。
局所免疫療法は、専用の薬剤を頭皮に塗り、かぶれを起こさせることで、髪を脱毛させている免疫反応を抑えて発毛を促すという治療法。治療に使う薬剤は医薬品として承認されていないため、治療は自費となり、実施している医療機関も少ない。だが、効果は高く、「かぶれを起こさせることができた場合、半数以上で髪が生えてきます。8割以上の人で発毛がみられたと報告する医療機関もあります」と、局所免疫療法などによる円形脱毛症の治療に詳しい横浜労災病院(横浜市港北区)皮膚科部長の齊藤典充(のりみつ)氏は話す。
円形脱毛症の根本原因「自己免疫反応」を抑える
円形脱毛症は誰にでも起こり得る病気で、一生のうち1.7%程度の確率で発症すると推計されている。円形脱毛症というと、俗に「10円ハゲ」と呼ぶように、一般には髪が硬貨大に1箇所抜ける「単発型」をイメージすることが多いだろう。しかし、単発型のほかにも、数箇所が円形に脱毛する「多発型」、頭髪全体が抜け落ちる「全頭型」、頭髪だけでなく眉毛やまつ毛、ヒゲなど全身の体毛が抜けてしまう「汎発型」など、様々な脱毛パターンがある(図1)。
発症の原因はストレスと思われることが多いが、齊藤氏は「ストレスは症状を誘発する要因の1つに過ぎない」と話す。ストレスや思い当たる出来事がなくても円形脱毛症を発症するケースは多く、インフルエンザなどの感染症が脱毛のきっかけになる場合もあるためだ。根本的な原因は、そうした何らかのきっかけによって、「自己免疫反応」が起こることだと考えられている。
人の体には、細菌やウイルスなどの異物が侵入したとき、攻撃して身を守る「免疫機能」が備わっている。この免疫機能に異常が生じ、自分自身の体の一部を攻撃してしまうのが自己免疫反応だ。「円形脱毛症の場合、免疫細胞のTリンパ球が、毛根を異物と見なして攻撃することで、脱毛が起こります」(齊藤氏)。
リンパ球による毛根への攻撃が続いている「進行期」には、攻撃を受けている部位では生えてきた髪がすぐ抜けてしまう。脱毛箇所が複数ある「多発型」や全体的に髪が抜け落ちる「全頭型」では、脱毛箇所が増え、脱毛の範囲が広がる。その後、リンパ球による攻撃が収まると(症状固定期)、脱毛範囲の拡大は止まる。脱毛箇所が1つだけの「単発型」の場合は、7~8割の人で自然に髪が生えてくる。
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