耳の中で「キーン」「ゴー」「ジー」といった音が鳴り響く「耳鳴り」。外部の音がないのに音を感じる不快な現象であり、悩まされている人は多い。原因の特定が難しく決定的な治療法が確立されていないため、あきらめている人も多いだろう。そんな耳鳴りに対して「鼓室内注入療法」という治療法がある。1回15秒程度の施術を週1回繰り返すことで、多くの耳鳴りを軽減する効果が期待できるという。
耳鳴りは、本人の自覚症状であり、他の人からなかなか理解されず、人知れず悩む人は多い。四六時中鳴り響く音に悩まされ、つらい思いをしているものの、命に関わるものではないことなどから、「年のせい」と片付けられたり、「上手に付き合っていくしかない」といった言われ方で、積極的な治療がなされないことも少なくない。
そんな耳鳴りに対して、川越耳科学クリニック(埼玉県川越市)院長の坂田英明医師は「原因にもよりますが、内耳に問題が生じて起こっている耳鳴りであればほとんどの場合、鼓室内注入療法によって改善することができます」と話す。
鼓膜の奥にステロイドを直接届かせ症状を緩和
鼓室内注入療法とは、耳の鼓膜に注射針を刺し、その奥にある「鼓室」にステロイドの注射薬を注入することで、鼓室のさらに奥にある「内耳」と呼ばれる部位に薬効を届かせ、耳鳴りを緩和させる治療法だ(図1)。突発性難聴の治療に使われることもある。
坂田医師のクリニックでは、慢性の耳鳴りの場合、ステロイド剤のデキサメタゾン(商品名:デカドロンほか)の注射剤0.4~0.5mLを週に1回4週間、鼓室内に注入する治療を行う。医療機関によっては、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(商品名:リンデロンほか)を使用することもあるという。「効果のある場合、初回の施術後から耳鳴りが軽減する人がほとんどです。週1回の施術を4回、つまり4週間行って1クールとしていますが、多くの人が、そこで治療を終えています」と坂田医師は効果のほどを話す。1クールを終えたところで耳鳴りを評価し、必要に応じて、継続して2クール目を行ったり、時間を置いてさらに1クールを行う場合もある。
坂田医師は、これまでに1万人以上の人に鼓室内注入療法を行っているが、「耳鳴りを訴える人のうち6~7割程度の人は、改善している」と力強く話す。
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