ワインとは本来、喜びであり、驚きであり感動の源
ロレンツォ・コリーノ氏「ワインの本質」を語る(2)
寺西芝=日経Gooday編集長
最近、「自然派ワイン」「ビオワイン」(*1)と呼ばれる種類のワインが定着しつつある。日本でも人気のあるイタリアのワイン「カーゼ・コリーニ」のロレンツォ・コリーノ氏もその自然なワインの作り手の一人だ。前回は土壌の大切さについて語ったコリーノ氏。今回は作り手の視点から、ワインの現状について語ってくれた。
イタリアの中でも赤ワインの産地で有名な北部ピエモンテ州のブドウ栽培農家に生まれ、英国ケンブリッジのPlant Breeding Instituteなど、ヨーロッパをはじめ世界各地で研究に従事し、ブドウ栽培に関する学術書も執筆する専門家ロレンツォ・コリーノ氏。彼のワインは、できる限り人の手による加工をせずに作られている。彼のワイン作りについての考えを聞いてみた。

ワインを作るために添加物は必要か?
ワインを作るためにも必要な添加物があると聞きます。たとえばワインの品質を守るために普通に使われている酸化防止剤(亜硫酸、もしくは二酸化硫黄:*2)についてはどうお考えですか?
コリーノ氏 これまでは限られた土地で限られた生産者によって(丁寧に)作られたブドウによってワインは作られていました。酸化防止剤の使用の話以前に、ブドウ栽培に向かない土地でブドウを作り始めたことが問題なのです。その土地に合ったブドウを栽培しなくなったので、酸化防止剤も含めたあらゆる添加物を使っての、人の手による「加工」が必要になったのです。
はっきりさせておきたいのは、ブドウを作るのに向かない土地でブドウ栽培をするから、その質を矯正するために添加物を使うのです。ワイン作りに適した完璧なブドウがあれば添加物を使う必要はありません。
本当の問題は、畑の地理的要因です。イタリアの現状を見てみますと、全土で約70万ヘクタール(*3)ほどあるブドウ畑のうち、多くはブドウ栽培に適していない場所で作られていると私は考えています。こういった土地で作られたブドウは、添加物などを含めて人が何らかの手を加えないとワインになりません。

なるほど、消費者はそのあたりのことをあまり知らないかもしれませんね。では、生産者として気を付けていることはどういったことですか?
コリーノ氏 消費者にとっていいもの、悪くないという保証のあるワインを作らねばなりません(*4)。これは絶対にはずしてはいけません。それがどうやって作られているのかも大事(鍵)です。消費者を大切にすること、消費者を守ることが大切です。それは長い目で見れば、生産者と消費者とのいい関係を作ることにつながります。いい加減なものを作ればそれでおしまいです。生産者の多くは何も考えずに短期的な視点で「今、売れるワイン」を作ってしまいがちです。消費者に思いを寄せ、先々まで商売ができるものを作っていかねばなりません。そうすれば先々まで商売ができるので経済的にも価値があります。でも、往々にしてそうではないことが起こっています。
なるほど、生産者の意識も大事なんですね。
コリーノ氏 もう一度繰り返しますが、どんな農産物であっても、より質の高いものを作っていかねばなりません。世界中の生産者がそういた意識を持つべきでしょう。自然の資源、例えば土壌、木々、景観も含めた自然を守り、健康な土地から健康な食品を作っていかねばなりません。そして、それにまつわる文化も守っていかねばなりません。そのためには教育していくことも大事です。

じつは、まだ構想段階ですが、学校を作れないかと考えています。本(右写真)を出してからは、世界中から多くの学生たちが私の畑を見学してくれるようになりました。持続可能な農業について論文を書こうとしている農学部の学生や、持続可能な地域発展について研究しているベローナ大学の経営学マスターなど様々です。私が学校を作れば、自分の経験を伝えていくことができます。私の農業に関する考えを元にした、いわば「メトドコリーノ学校(コリーニ方式の学校)」です。そこではブドウ栽培を教えるのではなく、人類にとって大事なお米などの主食になる穀物の栽培について学んでもらえるようにしたいと考えています。
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