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編集長インタビュー

ワインとは本来、喜びであり、驚きであり感動の源

ロレンツォ・コリーノ氏「ワインの本質」を語る(2)

 寺西芝=日経Gooday編集長

ワインとは喜びであり、驚きであり感動の源

1人のブドウ生産者として、コリーノさんのお考えを聞かせていただければと思います。

コリーノ氏 農薬を大量に散布し、生物多様性のない単一栽培によって疲弊した土壌にわざわざ肥料を入れるような農業は、化学薬品を作る企業にがんじがらめにされているようなものだと思います。大量の農薬を使って、なんとかブドウを作っているような状況はイタリアのみならず、ヨーロッパの他の国でも同じです。

 ただし、健やかな環境で「自然なブドウ」を作り、添加物を加えずに加工処理もしない「自然なワイン」を作るのはそう簡単なことではありません。そこには職人的な高い専門性が求められます。ブドウ栽培ができれば、だれもができるかと言えばそうではありません。培ってきた熟練の技を畑と蔵(ワイナリー貯蔵)に注ぎ込んで初めてなしうるものです。つまり、「自然なワイン」を作ることは限られた人にだけ開かれたもので、そこに大きな価値があります。

 今の消費者は、より自然環境に配慮して作られたワインを求めていて、それに価値を見出してくれているのだと思います。消費者の多くは、体に負担をかけないワインを求めています。また同時に、畑とその周囲の環境が守られ、畑で働く人の健康にも配慮した、つまり働く人が農薬の害を受けずに健康が保たれるような環境で作られたワインに価値を求めていると感じています。

 ワインを飲んで頭がズキズキするなんてだれも求めていないでしょう。おいしい食事がワインのせいで台無しになるなんてうんざりのはずです。周辺環境を汚染するような農薬を大量に散布して収穫したブドウに、さらに化学物質を加えて加工処理しなければ売れないようなワインを大量に作る必要があるのでしょうか。

 ワインがこれ以上ありきたりで、魂も物語もない作り物になってほしくはありません。なぜならワインとは本来、喜びであり、驚きであり感動の源なのですから。

 最後に日本の方々に大変感謝すべきことがあります。ワインが、表面的な味を超えて、本質を突き詰めた自然の産物の主役に返り咲けるようにと、20年以上にわたってイタリアの生産者たちを励まし続けてくれている日本の消費者のみなさんに感謝申し上げたいと思います。ありがとうございます。

こちらこそ、ありがとうございました。

(まとめ:寺西 芝/通訳:川村武彦/インタビュー写真:稲垣純也)

※このインタビューは、コリーノ氏への独自取材と氏の著書『ワインの本質』の抜粋も含め独自に構成したものです。取材は2019年に行われました。

「自然なワイン」という言葉の使われ方が非常に混乱している

アントネッラ・マヌリさんインタビュー

「メトド・コリーノ(コリーノ方式)」をロレンツォ・コリーノ氏とともに開発したワイン生産者のアントネッラ・マヌリさんにも話を伺った。メトド・コリーノでは環境に配慮したブドウ作りを実践しているが、実際にどのようなものだろうか。彼女のユニークな経歴も含めて聞いてみた。

アントネッラ・マヌリさんは非常にユニークな経歴ですね。

マヌリ氏 米国カリフォルニア州の大学で経営学を学び、卒業後は金融業界に入り、その後、公認会計事務所や、トスカーナのサトゥルニアにある「テルメ・ディ・サトゥルニア」(*1)のリゾート経営にもかかわっていました。私が大学に行っていた頃、1980年代のカリフォルニアには、サンフランシスコで生まれたオーガニックの考えがあり、そのころにはイタリアにはまだそれほどオーガニックな思想はありませんでした。そのころのカリフォルニアは、スティーブ・ジョブスがアップル社を創業したすぐあとだったので、大変クリエイティブで革新的な時代だったのです。私は、環境に関する繊細さをカリフォルニアで学んだんです。

ラ・マリオーザのワイン「クデ」(左)と「ウニ」
[画像のクリックで拡大表示]

 今、人生においてやっとそのタイミングが来たと思っています。自分で土地を買って、まったくのゼロからワイナリーを始めました。だれからの資金援助も相続もしていません。自分は女性で、ワインの世界は「男の社会」です。女性で新しいから、いつでも革新的になれる自由を得たと思っています。違うことができる自由があります。不利なこともありますが、不利なことが逆にアドバンテージでもあるのです。

なぜブドウ作り、ワイナリー経営を始められたのですか。

マヌリ氏 今の農園はトスカーナのマレンマ地方にあるのですが、この場所に非常に刺激されたのです。温泉のあるテルメ・ディ・サトゥルニア・リゾートで10年間経営者として働きましたが、このあたりの美しさに大変魅了されました。この場所を愛していたので、このあたりで見つけようとしたのです。このあたりでなければワイナリーは始めていませんでした。

ロレンツォ・コリーノ氏との出会いは。

マヌリ氏 ロレンツォ・コリーノ氏と知り合う前から農園はありましたが、ロレンツォと知り合うことでターボがかかったようになりました。われわれの農園「ラ・マリオーザ」が面白い点は、研究プロジェクトと農業が融合したところです。スタートアップ企業のように始まったばかりですが、お金がある大企業のようにバックグラウンドのある企業なら、調査などから始められるでしょうが、われわれはスタート時点で研究開発と農業生産を同時に始めたのです。

ロレンツォ・コリーノさんと出会って「メトド・コリーノ」の構想を思いついたのはなぜなのですか?

マヌリ氏 まず「自然なワイン」という言葉の使われ方が非常に混乱していると感じたからです。この言葉には法的な裏付けが全くないのです。私たちのように厳しい基準を設けて真面目に作っている生産者にとっては、こういった混乱はとても不利益なのです。例えばの話ですが、「自然なワインを作っている」と主張する生産者の中には、自分たちでブドウを作らずに他から買い付けたブドウを使っている人たちさえいます。大規模なワイナリーでも自然派を標榜しているところもありますが、そういった規模の大きい生産者は機械化をしたり、加工のテクニックを使わなければワインは作れません。

 今の「自然なワイン」には法的な裏付けがなく、生産者が恣意的に作って勝手に「自然なワイン」を名乗ることができるので、混乱が続いています。

 自分たちの製造方法が透明性を持ち、誰が見ても分かるようにしたいと思っていました。なので「メトド・コリーノ(コリーノ方式)」としました(メトドは英語で言うmethodのこと)。ルールとして成文化して、これを広げていきたいと思っています。

「メトド・コリーノ」では土中の微生物の量などを計測して、土の豊かさを数値でとらえてますね。

マヌリ氏 はい。シエナ大学との共同研究で畑や土の状態を計測をしていますが、何年もかけてデータを蓄積してきました。われわれは、ビオディナミ(*2)の生産者としてはイタリアで初めてカーボン・フットプリント(Carbon Footprint)(*3)を計測し始めたのです。「自然なワイン」や「サステナブル(持続可能性)」がある種のブームになっていますが、ブームに乗った人々には科学的な裏付けがありません。われわれは土の中の微生物の量などを計測し、科学的な計測データを使って環境への影響を考えています。やっていることはすべて証明できなければなりません。

 メトド・コリーノが、まさに製品を市場に提供していく上でこの考えを応用していくのは非常に革新的だと思います。信じてくれとは言いません。もし疑いを持つのであれば、農場に来てもらえれば数字をお見せしますよ。ぜひ、いらしてください。

*1 イタリア中部トスカーナ地方にある天然温泉を中心としたリゾート地。テルメ・ディ・サトゥルニアはその中でも有名なスパリゾート。
*2 ビオディナミ(Biodynamie)とは有機農業の一種で、植物、動物、そして土壌が互いに影響しあい一緒に働くシステムであると考えることを特徴とする。英語にするとBiodynamic。
*3 直訳すると「炭素(Carbon)」の「足跡(Footprint)」。ある商品を作るときに発生する温室効果ガスの量を計算し、二酸化炭素の量として表示するもの。
ロレンツォ・コリーノ(Lorenzo Corino)さん
ロレンツォ・コリーノ(Lorenzo Corino)さん 1947年、イタリア北部ピエモンテ出身。1972年農学部を卒業後、ローマの国立穀類試験場で研究者生活を開始。奨学金を得て英ケンブリッジのPlant Breeding Instituteにて穀類の遺伝耐性の研究プロジェクトに従事。イタリアに帰国後、国立穀類試験場、コーネリアーノヴェネトのブドウ栽培試験場アスティ研究所に入り1989年同所の所長に任命される。2008年5月から2009年10月バーリの地中海エリアぶどう研究所の所長を歴任。2009年12月からアスティ醸造学研究センターの所長を務め2012年末で退任。ブドウ栽培に関する学術書を約90冊執筆(一部共同執筆)。

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