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速水健朗の「フードスタイル時報」

流行はメディア情報で動く。はたしてこのワインブームは?

 文=速水健朗

食の傾向が情報によって左右される時代に

 戦後に日本人が親しんできたお酒のスタンダードの変遷を見てきたが、食にまつわるライフスタイルが時代とともに変遷するというのは、特異なことでもある。「フードファディズム」という言葉がある。食の傾向が、メディアなどの情報によって激しく左右される状態を指す言葉だ。アメリカでは、2000年頃を契機にそれまで健康食だと思われてきた、寿司やパスタが急に「非健康的」な食べ物という認識に変わったと『雑食動物のジレンマ』で知られる食ジャーナリストのマイケル・ポーランが指摘する。

マイケル・ポーラン著『雑食動物のジレンマ』(東洋経済新報社)
マイケル・ポーラン著『雑食動物のジレンマ』(東洋経済新報社)

 それまでのアメリカ人は、自分たちの肥満の原因は、脂肪の多い肉を摂取しすぎることにあると思っていた。だが、むしろ肥満の原因は糖質の取り過ぎ、つまり炭水化物こそが敵であるといったように、人々の食に関する知識がメディアの情報によって覆されたのだ。

 これをイタリア人やフランス人に伝えたところで、彼らは100年以上にわたって食べてきた伝統的なパスタ料理を手放すわけではない。これまでもパスタで健康を維持してきたのだから。つまり、アメリカのような伝統の積み重ねがない国だから、「フードファディズム」が発生するのだ。そして、戦後の日本も、「フードファディズム」に流されやすい社会だ。ブームになった赤ワインを飲むことでポリフェノールが摂取できるという「メディア情報」から始まった第6次ワインブームは、典型的な「フードファディズム」である。だがそれは、20年近い月日の末に、日常的なライフスタイルとして定着した。「脱フードファディズム」が今後の健康食品を考える上で重要な要素になるだろう。ワインの定着とは、それを占う重要な事例だったように思う。

 ワインバルの客層を見ると、女性同士の客が多い。戦後からの日本人と酒の付き合いを見ると、当初はお酒を飲む主体は男性が中心だった。今はそうではない。今のワインブームとは、女性が外食でお酒を飲むのが当たり前になったということが統計に現れたという現象とも受け止められる。ポリフェノールは、熟成されたヴィンテージワインに多く含まれており、健康目的のワインユーザーも、いいワインを見極める目も肥えてきている。

 健康目的でホッピーを飲む男性たちも、プリン体を気にするのであればワインを飲むという選択肢もある。公益財団法人・痛風財団が発表しているアルコール飲料中のプリン体含有量比較(http://www.tufu.or.jp/gout/gout4/73.html)によると、国産の有力メーカーのビール、最近流行中の地ビールなどに比べても、ワインに含まれるプリン体は極めて少量。

 男性の中には、まだワインが好きというと、少し気取っているかのように思ってしまう自意識が残されている。ちなみに僕は、機会があるたびにワイン好きを公言しており、それが功を奏したのか、最近、誕生日のプレゼントなどでワインをいただく機会が増えた。お歳暮ならともかく、誕生日にビールをもらうという話はあまりない。贈答の品としてもワインはスマートな存在。ワイン好きを公言してきて良かった。ワインをもらうのは格別である。

速水 健朗(はやみず けんろう)さん
フリーランス編集者・ライター
速水 健朗(はやみず けんろう) 1973年石川県金沢市生まれ。パソコン雑誌の編集を経て、2001年よりフリーランスとして、雑誌や書籍の企画、編集、執筆などを行う。主な分野は、メディア論、20世紀消費社会研究、都市論、ポピュラー音楽など。2012〜2013年にかけてNHK総合『NEWS WEB 24』レギュラー出演。日本テレビ『シューイチ』(日曜日朝7:30~10:00)、フジテレビ『習慣フジテレビ批評』(土曜日朝5:00~6:00)TBSラジオの「文化系トークラジオLIFE」にレギュラーほか。著書『フード左翼とフード右翼』『1995年』ほか多数。ツイッターはhttps://twitter.com/gotanda6

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