前回、「〇〇という薬を飲んではいけない」と読者を煽る週刊誌を読んで心配になっていても、基本的には大丈夫ですよ、というお話をしました(「雑誌が煽る「飲んではイケナイ薬」にだまされてはイケナイ!」)。
記事で「飲んではいけない」とか、「医者は飲まない」と糾弾されている薬の中には、大切な薬がたくさん含まれていました。でも実際には、薬そのものが悪いのではなく、「内服する状況が間違っている」ということが圧倒的に多いんですね。
そこがとっても大事なのです。
テレビ番組の影響で、1割以上が自己判断で薬を中止
過去にもあるテレビ番組で、「〇〇という種類の薬には他人を攻撃する危険性があると厚生労働省が注意を呼び掛けている」という報道がなされた直後、その薬を飲んでいた人たちが不安になり、自己判断で中止してしまうということがありました。
インターネット調査によると、このとき1割以上の人が自己判断で減量や中止を行ってしまったようです(*1)。その結果、健康状態にどのような影響があったかということについては分かりません。

過去に海外でもこのようなことがありました。
2013年、British Medical Journal(BMJ)というイギリスのメジャー医学雑誌が、「スタチン系薬剤(脂質異常症のお薬)は、心血管疾患の1次予防(*2)のために飲んでも、得られる利益が小さい」という論文や論説を立て続けに取り上げました。
すると、現地のマスコミがそれをセンセーショナルに紹介し、影響を受けた人たちはスタチンを飲むのを勝手に止めてしまったのです。
ちょうどその時期、日本の某週刊誌も、「スタチン系薬剤(クレストール、リピトール、リバロなど)は飲んではいけない」という記事を掲載しており、日本の患者さんにも影響がでました。
ところが、スタチンには2次予防(*2)の有効性はしっかり示されていますし、1次予防でも、喫煙者、高血圧症、肥満、糖尿病など生活習慣病オンパレードの人には特に、内服の価値があるのです。にもかかわらず、内服の価値が高い人たちの中にも、中断してしまう方が現れてしまったのです(*3)。
*2 1次予防というのは、その病気をまだ患ったことのない人が、その病気を1度も患わないように予防することです。例えば心筋梗塞を起こしたことのない人が、心筋梗塞の予防目的でスタチン系薬剤を飲むことを指します。ちなみに2次予防とは、その病気を既に経験したことのある人が、再度起こさないよう予防することです。
*3 Impact of statin related media coverage on use of statins: interrupted time series analysis with UK primary care data. BMJ. 2016 Jun 28;353:i3283.
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