日経グッデイ

Dr.キタカズの「意外に知らない!?くすりにまつわるエトセトラ」

「飲んではイケナイ」の週刊誌騒動、その後…

今飲んでいる薬を急に中止しないで!

 北和也=やわらぎクリニック副院長

 前回、「〇〇という薬を飲んではいけない」と読者を煽る週刊誌を読んで心配になっていても、基本的には大丈夫ですよ、というお話をしました(「雑誌が煽る「飲んではイケナイ薬」にだまされてはイケナイ!」)。

 記事で「飲んではいけない」とか、「医者は飲まない」と糾弾されている薬の中には、大切な薬がたくさん含まれていました。でも実際には、薬そのものが悪いのではなく、「内服する状況が間違っている」ということが圧倒的に多いんですね。

 そこがとっても大事なのです。

テレビ番組の影響で、1割以上が自己判断で薬を中止

 過去にもあるテレビ番組で、「〇〇という種類の薬には他人を攻撃する危険性があると厚生労働省が注意を呼び掛けている」という報道がなされた直後、その薬を飲んでいた人たちが不安になり、自己判断で中止してしまうということがありました。

 インターネット調査によると、このとき1割以上の人が自己判断で減量や中止を行ってしまったようです(*1)。その結果、健康状態にどのような影響があったかということについては分かりません。

この薬、大丈夫かな…と思っても、性急に判断せず主治医に相談を。(©Antonio Diaz-123rf)

 過去に海外でもこのようなことがありました。

 2013年、British Medical Journal(BMJ)というイギリスのメジャー医学雑誌が、「スタチン系薬剤(脂質異常症のお薬)は、心血管疾患の1次予防(*2)のために飲んでも、得られる利益が小さい」という論文や論説を立て続けに取り上げました。

 すると、現地のマスコミがそれをセンセーショナルに紹介し、影響を受けた人たちはスタチンを飲むのを勝手に止めてしまったのです。

 ちょうどその時期、日本の某週刊誌も、「スタチン系薬剤(クレストール、リピトール、リバロなど)は飲んではいけない」という記事を掲載しており、日本の患者さんにも影響がでました。

 ところが、スタチンには2次予防(*2)の有効性はしっかり示されていますし、1次予防でも、喫煙者、高血圧症、肥満、糖尿病など生活習慣病オンパレードの人には特に、内服の価値があるのです。にもかかわらず、内服の価値が高い人たちの中にも、中断してしまう方が現れてしまったのです(*3)。

*1 澤田康文.テレビの「薬」情報か患者・医療現場に与える影響実態調査:第13回日本医薬品情報学会総会・学術大会(2010.7.23)
*2 1次予防というのは、その病気をまだ患ったことのない人が、その病気を1度も患わないように予防することです。例えば心筋梗塞を起こしたことのない人が、心筋梗塞の予防目的でスタチン系薬剤を飲むことを指します。ちなみに2次予防とは、その病気を既に経験したことのある人が、再度起こさないよう予防することです。
*3 Impact of statin related media coverage on use of statins: interrupted time series analysis with UK primary care data. BMJ. 2016 Jun 28;353:i3283.

 一連の報道のほとぼりがさめるまで(スタチンを中止してしまった患者さんが再開するまで)はだいたい半年ほどかかったということですから、その間に過去に心筋梗塞を起こした人がまた心筋梗塞を起こして命を落としてしまった、というケースもあるはずです。もちろん、「スタチンを飲んでいたら絶対に心筋梗塞を起こさなかったのか?」と言われると、そういうわけではありません。

 これは、「医療に絶対はない」という意味です。医療は常に不確実なものです「医療の不確実性」といいます)。2次予防としてスタチンを内服していれば、心筋梗塞などの発生確率は減少しますが、完全になくなることを保証するわけではありません。不幸にも心筋梗塞を起こしてしまったからといって、スタチンの効果そのものが否定されるというわけではないのです。心筋梗塞を起こしてしまった個々の患者さんはもちろんとてもつらいと思いますし、そこはきっちり対応する必要がありますが、そのことで、薬そのものが効かない! ダメだ!と短絡的に解釈するのは間違っています

「超神水」を飲んでいい人と飲んではいけない人がいる

 …話がそれましたが、何を言いたいかというと、1つの薬をとっても、薬を内服している理由はさまざまで、飲む人によって期待される効果や副作用が異なるということです。スタチンを飲まなくても良い人もいれば、飲んだ方が良い人も当然いるわけで、みんな一緒じゃないんです!

 分かりやすく例えると、孫悟空は超神水を飲んで潜在的な力が引き出されましたが、ヤムチャが飲んでいたら即死だったということですっ!(余計に分かりにくいでしょうか?)

 すべての人が飲まない方が良いという薬はほとんどありません。例外中の例外は抗菌薬の経口第三世代セフェムと経口カルバペネムで、これらの薬は、「使いどころがなかなか見当たらない薬剤」の頂点に君臨する超エリート突然変異なのです!(詳しくは「だいたいウンコになるので専門家に通称DU薬(DAITAI UNKO)とすら呼ばれる抗菌薬について知っておきたいこと」を参照)

 実際の医療の現場では、「この人の場合、この薬は飲まなくても良いんじゃないの?」と思ってしまう薬はたくさんありますが、何も起こっていないのであれば、基本的には過度に心配する必要はありません。次の受診のときに医師に相談すれば良いだけのことです。そもそも全ての薬は副作用を起こし得ますので、内服の際はそのデメリット(将来の副作用のポテンシャル)を上回るメリットがあるのかないのか、よく考えて内服する必要があります。

 何度も繰り返しますが、ぜひとも皆さん、週刊誌を読んで今飲んでいる薬を急に中止しないようにしてください!

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週刊誌のネガティブキャンペーンを医師はどう思う?

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北 和也
やわらぎクリニック副院長
北 和也 2006年大阪医科大学卒。府中病院急病救急部、阪南市民病院総合診療科、奈良県立医科大学感染症センターなどで主に総合診療・救急医療・感染症診療に従事。手足腰診療のスキルアップのため、静岡県は西伊豆健育会病院 整形外科への3カ月間の短期研修(単身赴任)の経験もあり。
現在は、やわらぎクリニック(奈良県生駒郡)副院長として父親とともに地元医療に貢献すべく奮闘中。3姉妹の父親で趣味は家族旅行。