雑誌に「ダメ」と書かれている薬の中には、テキトーに止めると非常に危険な薬もあります。
例えば、抗凝固薬という、血栓を作りにくくする薬があります。
血が固まりにくくするということは、一方で、出血リスクを上げるというデメリットが付いてまわります。
したがって、「何の病気もない人に抗凝固薬」はもちろんおかしいですが、たとえば「心房細動(放置すると脳梗塞を引き起こす可能性のある不整脈)で脳梗塞の既往を持つ、出血リスクの少ない75歳の男性に抗凝固薬」は、おかしいとは思いません。
それぞれ個別の状況に応じて内服の必要性について論じられるべきところを、「あの薬はダメ」と一刀両断してしまうのは非常に危険なのです。
そして、よくよく考えてみて下さい。
薬をたくさん内服していても、健康に暮らしている方はたくさんおられます。多くの薬を内服しているからといって、必ず副作用を起こしているとは限りません。
それにも関わらず、自己判断で急に中止してしまうと、命にかかわることもあり得るのです。
「たくさんの薬を使うこと=悪」ではない
「薬漬け医療をなくそう」「無駄な薬を減らそう」というのは、最近の世間の流れであり、最近話題になっている「ポリファーマシー(多剤併用、必要以上に多くの薬を飲んでいる状態)」という言葉も少しずつ浸透しているように感じます。
ただその半面、この言葉がやや一人歩きしているように感じることもあります。
私を含めたポリファーマシー問題に取り組んでいる人たちの多くは、「減薬が全てである」なんて決して思っていません。
「個々の患者さんにフィットした、より良い処方っていったい何なんだろう?」という発想で、処方を整理しているに過ぎないのです。
より良い処方内容を検討した結果、処方が増えることだってあるんです。
「5剤以上だから絶対ダメ!」とか、「8剤だからあと4剤は減らそう!」という発想で取り組んでいるわけではないのです。
よりフィットした薬を、と考えれば、自ずとメリットが乏しい・デメリットが多い薬は減らす方向に、メリットの多い・デメリットの少ない薬は増やす方向に働く。それだけのことなんです。
(ただし、少々のメリットがあり、デメリットは少ない、という薬を多く処方されれば、トータルでデメリットが大きくなるということがあるので注意が必要です。もしかしたらご利益があるかも…という処方を医師が繰り返せば、その患者さんは世の中のたくさんの薬を飲んでしまうことになるかもしれません。)
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