日経グッデイ

Dr.キタカズの「意外に知らない!?くすりにまつわるエトセトラ」

続・だいたいウンコになるので専門家に通称DU薬(DAITAI UNKO)とすら呼ばれる抗菌薬について知っておきたいこと

 北和也=やわらぎクリニック副院長

 前回、「経口第三世代セフェムは飲まない方がいいのではないか?」というお話をさせていただきました(前回記事はこちら)。

 理由をおさらいします。

  • せっかく飲んでも吸収されずにDAITAI UNKOになる(DU薬と呼ぶ専門家もいる)
  • よって、感染症を治すのは不得意な抗菌薬である
  • それなのに腸内細菌が無駄に死んでしまい、危ない下痢を引き起こす場合がある
  • 想定しうる全ての状況で、他に適切な医療(「様子をみるだけ」も含め)が存在する
  • ということで、私や周りの医師は、経口第三世代セフェムを処方せずに診療している

 というわけです。

 「そんなの聞いたことがない! お前の周りの医師だけが特殊な医療をしているだけじゃないのか!?」と言う方もいるかもしれません。

 確かにそう感じられても仕方がないのかもしれません。なぜなら、日本という国全体が、経口第三世代セフェムを大量に使用しているからです。

世界でも群を抜く日本の消費量

 世界のセフェム系抗菌薬のマーケティング情報を見てみましょう。

2010年の世界のセフェム系薬売り上げランキング(*1)
  • 第1位 ロセフィン(点滴の第三世代セフェム) 全売上の3.1%(年商3.2億ドル)
  • 第2位 Zinnat(経口第二世代セフェム) 2.5%(2.6億ドル)
  • 第3位 フロモックス(経口第三世代セフェム) 2.4%(2.5億ドル)
  • 第4位 メイアクト(経口第三世代セフェム) 1.9%(2.0億ドル)

 経口第三世代セフェムが世界のセフェム系抗菌薬の上位を占めていることがわかります。

 「なんだ、日本だけじゃないじゃん! 世界中で売れているんじゃないか?」と思いたいところですが、そうではないのです。

 実はこのフロモックスとメイアクトの売上のかなりの割合を、日本国内の売り上げが占めていることが予想されるのです。

 2013年の日本国内の売上データでは、フロモックスが年商158億円、メイアクトが150億円でした。同じ年の売り上げの比較はではないものの、これらの薬の世界の売り上げの大部分を日本が占めていることは想像に難くありません(*2)。

 どうですか、ちょっと変ですよね。もちろん、日本だけ特殊な細菌感染が蔓延しているわけではありません。

 なので、Why Japanese people!な感じなのです。

*1 Antibacterial Drugs ; World Market Prospects 2012­-2022. Visiongain, London, 2011.
*2 第15回 抗菌剤(その3)経口用・注射用セフェム系抗生物質, マーケティングシェア・シリーズ第41弾(2013年). 国際医療品情報 1031 : 60, 2015.

経口第三世代セフェムを使う代わりにどうすればいい?

 では、本題です。

 ダメダメ言われてばかりでは、結局どうしていいか分からないと思いますので、経口第三世代セフェムを使う代わりに何をすればいいかをざっくりまとめておきます。

 参考にしていただけると嬉しいです。

経口第三世代セフェムが使われがちな場面と、よりふさわしい対応
かぜ
咳・鼻・のどの症状が同時に出るようないわゆる“かぜ”は、ほとんどがウイルス感染によるものなので、抗菌薬は不要です。
急性副鼻腔炎(強い鼻詰まり、頬や額の痛み、発熱などで疑います)
たいていウイルス性であり抗菌薬は不要です。細菌性であったとしても軽症であれば抗菌薬なしでたいてい自然軽快します。
細菌性の中には強い痛みや高熱などがあり抗菌薬が必要な場合もあります。しかしその場合もアモキシシリン(商品名サワシリンなど)あるいはアモキシシリン・クラブラン酸(商品名オーグメンチンなど)が第一選択であり、第三世代セフェムの使用は推奨されていません(*3)
細菌性咽頭炎(のどの強い痛み、首のリンパ節の腫れ、発熱があるものの、鼻水や咳といった典型的な“かぜ症状”がない時に疑います)
第一選択はペニシリンやアモキシシリンです。ペニシリンアレルギーがあったとしても、代替案として第一世代セフェム(商品名ケフレックスなど)やクリンダマイシンなどの選択が推奨されています(*4)。
よくわからない高熱
経口第三世代セフェムでの“なんとなく”な治療は言語道断です。抗菌薬を使う場合は、発熱の原因を筋道を立てて検討することが先決であり大前提なのです。
やけど
単にやけどがあるというだけで、感染予防に抗菌薬を内服することは推奨されていません(*5)。
けが
軽いけがに対する感染予防目的の抗菌薬投与については明確な指針はありません。ルーチンの抗菌薬投与は不要ですし、たとえ必要であっても、皮膚常在菌による感染ですので、セファレキシンなどの第一世代セフェムで十分です。動物に咬まれた場合は、3~5日間のアモキシシリン・クラブラン酸の投与が勧められています(*6)。破傷風ワクチンの接種も忘れずに!
抜歯後
日本では抜歯後の感染性心内膜炎予防として経口第三世代セフェムが数日間処方されることが多いですが、それは勧められません。米国心臓協会では、心臓に人工弁を入れている人や感染性心内膜炎の既往があるなどのハイリスク患者に限り、抜歯前の30~60分前にアモキシシリン2gを内服することを推奨しています(*7)。
ただし日本循環器学会における適応はもう少し広い(*8)のですが、少なくとも抜歯後への処方などどこにも推奨していませんし、経口第三世代セフェムの推奨はどこにもありません。
妊婦、子ども
なんとなく安全というイメージや習慣から、経口第三世代セフェムが頻用されています。しかし、吸収をよくするためにくっつけた「ピボキシル基」の影響で、子ども・胎児が低カルニチン血症という状態になり、重い低血糖を起こし得ることが報告されており(*9)、決して安全とは限りません。
たとえば乳腺炎では、症状があまり強くなく、発症から24時間未満の場合には、乳汁のうっ滞を解除するよう努めるのみで十分であり、半日~1日以上症状が続く場合や、症状がどんどん悪化する場合に初めて経口第一世代セフェムなどで治療するよう勧められています(*10)。
小児・妊婦への安易な経口第三世代セフェム処方はぜひとも控えたいところです。
*3 Chow AW et al. Clin Infect Dis. 2012 Apr;54(8):e72-e112.
*4 Shulman ST et al. Clin Infect Dis. 2012 Nov 15;55(10):1279-82.
*5 一般財団法人 日本熱傷学会 熱傷診療ガイドライン 改訂第2版
*6 Enzler MJ. Mayo Clin Proc. 2011 Jul;86(7):686-701.
*7 Wilson W et al. Circulation. 2007 Oct 9;116(15):1736-54. Epub 2007 Apr 19.
*8 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2007年度合同研究班報告
*9 PMDA(医薬品医療機器総合機構)からの医薬品適正使用のお願い No.8 2012年4月
*10 ABM臨床プロトコル第4号 乳腺炎 (2014年改訂版)

 いかがですか。「私もこのシチュエーションで飲んだことがある!」という方も多いのではないでしょうか。実は私も小さい頃にたくさん飲んでいました。

 なぜ製薬会社はそんなクスリを作るんだ!と思う方がおられるかもしれませんが、製薬会社さんもこのような事実を皆が知っているわけではありません。営業担当者にお伝えすると驚かれることは多いのです。

 そして、このクスリはダメだと言うだけでなく、上述のような代替案について紹介します。たとえば「細菌性咽頭炎ではA薬を使うのではなく、きっちり診断できた場合はB薬を使うよう医師に勧めてあげるのはいかがでしょう?」と説明すると、喜ばれることが多いです。

 また、医師も、経口第三世代セフェムを良かれと思って処方している場合がほとんどなのです。悪意はなく善意で処方しているのです。

 しかし、だからといって漫然と処方を受け続け、飲み続けていてもよいのでしょうか。抗菌薬が他のクスリと圧倒的に違うところは、悪影響が内服した本人のみに留まらず、周囲の人たちへも及び得るところです

 では、もし今後処方された場合にどうするか。どのようなアクションを起こすかにもちろん決まりはありません。処方されるがままに内服する、あるいは何も言わずに捨ててしまう、というのは建設的ではなく、状況に変化を起こすことはできません。たとえば医師にこの記事を見せながら相談するのもひとつだと思います(ぜひとも笑顔で相談しましょう!)。

 自分や愛する人、未来の子どもたちのためにも、見て見ぬ振りはもうできないのです。医療者のみに頼ってるだけではなかなかうまくいきません。ぜひ皆で力を合わせてより良い社会を築いていきましょう!

厚労省も抗菌薬の使用量を減らすアクションプランを策定

 抗菌薬の濫用は、耐性菌の増加も招きます。これまで「切り札」とされてきた抗菌薬も効かないような多剤耐性菌の蔓延が世界的にも大きな問題となっており、2015年5月の世界保健総会では、薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランが採択され、加盟各国は2年以内に薬剤耐性に関する国家行動計画を策定することを求められました。

 これを受け、日本でも厚生労働省が2016年4月5日に「国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議」を開きました。ここで取りまとめられたアクションプランでは、日本では経口第三世代セフェム(セファロスポリン)、キノロン系薬(フルオロキノロン)、マクロライド系薬の使用頻度が高いことを指摘し、2020年までにこれらの薬の使用量を2013年の水準の半分にするという成果指標を掲げています(全抗菌薬も3分の2にまで減少させるというプランです)。この内容は無料で閲覧できます(こちらをクリック)。

注意)本連載は、医療否定を訴えるものではありません。必要な薬をテキトーに自己判断で中止するのはいけません!くれぐれもご注意いただければと思います。

北和也
やわらぎクリニック副院長
北和也 2006年大阪医科大学卒。府中病院急病救急部、阪南市民病院総合診療科、奈良県立医科大学感染症センターなどで主に総合診療・救急医療・感染症診療に従事。手足腰診療のスキルアップのため、静岡県は西伊豆健育会病院 整形外科への3カ月間の短期研修(単身赴任)の経験もあり。
現在は、やわらぎクリニック(奈良県生駒郡)副院長として父親とともに地元医療に貢献すべく奮闘中。3姉妹の父親で趣味は家族旅行。