経口第三世代セフェムを使う代わりにどうすればいい?
では、本題です。
ダメダメ言われてばかりでは、結局どうしていいか分からないと思いますので、経口第三世代セフェムを使う代わりに何をすればいいかをざっくりまとめておきます。
参考にしていただけると嬉しいです。
かぜ |
咳・鼻・のどの症状が同時に出るようないわゆる“かぜ”は、ほとんどがウイルス感染によるものなので、抗菌薬は不要です。 |
急性副鼻腔炎(強い鼻詰まり、頬や額の痛み、発熱などで疑います) |
たいていウイルス性であり抗菌薬は不要です。細菌性であったとしても軽症であれば抗菌薬なしでたいてい自然軽快します。 細菌性の中には強い痛みや高熱などがあり抗菌薬が必要な場合もあります。しかしその場合もアモキシシリン(商品名サワシリンなど)あるいはアモキシシリン・クラブラン酸(商品名オーグメンチンなど)が第一選択であり、第三世代セフェムの使用は推奨されていません(*3) |
細菌性咽頭炎(のどの強い痛み、首のリンパ節の腫れ、発熱があるものの、鼻水や咳といった典型的な“かぜ症状”がない時に疑います) |
第一選択はペニシリンやアモキシシリンです。ペニシリンアレルギーがあったとしても、代替案として第一世代セフェム(商品名ケフレックスなど)やクリンダマイシンなどの選択が推奨されています(*4)。 |
よくわからない高熱 |
経口第三世代セフェムでの“なんとなく”な治療は言語道断です。抗菌薬を使う場合は、発熱の原因を筋道を立てて検討することが先決であり大前提なのです。 |
やけど |
単にやけどがあるというだけで、感染予防に抗菌薬を内服することは推奨されていません(*5)。 |
けが |
軽いけがに対する感染予防目的の抗菌薬投与については明確な指針はありません。ルーチンの抗菌薬投与は不要ですし、たとえ必要であっても、皮膚常在菌による感染ですので、セファレキシンなどの第一世代セフェムで十分です。動物に咬まれた場合は、3~5日間のアモキシシリン・クラブラン酸の投与が勧められています(*6)。破傷風ワクチンの接種も忘れずに! |
抜歯後 |
日本では抜歯後の感染性心内膜炎予防として経口第三世代セフェムが数日間処方されることが多いですが、それは勧められません。米国心臓協会では、心臓に人工弁を入れている人や感染性心内膜炎の既往があるなどのハイリスク患者に限り、抜歯前の30~60分前にアモキシシリン2gを内服することを推奨しています(*7)。 ただし日本循環器学会における適応はもう少し広い(*8)のですが、少なくとも抜歯後への処方などどこにも推奨していませんし、経口第三世代セフェムの推奨はどこにもありません。 |
妊婦、子ども |
なんとなく安全というイメージや習慣から、経口第三世代セフェムが頻用されています。しかし、吸収をよくするためにくっつけた「ピボキシル基」の影響で、子ども・胎児が低カルニチン血症という状態になり、重い低血糖を起こし得ることが報告されており(*9)、決して安全とは限りません。 たとえば乳腺炎では、症状があまり強くなく、発症から24時間未満の場合には、乳汁のうっ滞を解除するよう努めるのみで十分であり、半日~1日以上症状が続く場合や、症状がどんどん悪化する場合に初めて経口第一世代セフェムなどで治療するよう勧められています(*10)。 小児・妊婦への安易な経口第三世代セフェム処方はぜひとも控えたいところです。 |
*4 Shulman ST et al. Clin Infect Dis. 2012 Nov 15;55(10):1279-82.
*5 一般財団法人 日本熱傷学会 熱傷診療ガイドライン 改訂第2版
*6 Enzler MJ. Mayo Clin Proc. 2011 Jul;86(7):686-701.
*7 Wilson W et al. Circulation. 2007 Oct 9;116(15):1736-54. Epub 2007 Apr 19.
*8 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2007年度合同研究班報告
*9 PMDA(医薬品医療機器総合機構)からの医薬品適正使用のお願い No.8 2012年4月
*10 ABM臨床プロトコル第4号 乳腺炎 (2014年改訂版)
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