日経グッデイ

Dr.キタカズの「意外に知らない!?くすりにまつわるエトセトラ」

だいたいウンコになるので専門家に通称DU薬(DAITAI UNKO)とすら呼ばれる抗菌薬について知っておきたいこと

 北和也=やわらぎクリニック副院長

 本連載は、医療否定を訴えるものでは決してありません。薬自体がダメ!とか言いたいのでは決してありませんし、必要な薬をテキトーに自己判断で中止するのは大変危険です。薬により得られる恩恵は確実に存在し、利益と害とをきちんと評価したうえで、ぜひとも賢く使っちゃおう!というのが本連載の意図なのです。ここ、超大事なので冒頭でお断りしておきます。よろしくお願いいたします!

 さて、以前「かぜに抗菌薬は効かない」という話をしました(「かぜに抗菌薬は効かない!」)。かぜに抗菌薬が効かない理由は、「かぜのほとんどはウイルス性だから」ということでした。

 そこで今回は、かぜに限らずどんな場合でも、あまり使わない・使いたくない抗菌薬についてのお話をしたいと思います。

 「え! そんなのがあるの!?」と思われるかもしれませんが…残念ながらあるのです。

あまり使いたくない「経口第三世代セフェム」

 あまり使いたくない抗菌薬の筆頭は、「経口第三世代セフェム」という種類の抗菌薬です。

 セフェムって何? いきなりそんな専門的な用語を出されても…と思われるかもしれませんね。「セフェム系」というのは、いくつかある抗菌薬の大きなカテゴリーの1つで、それの「第三世代(比較的新しい)」の内服タイプのものを、このように呼んでいるのです。

 では、この経口第三世代セフェムにはどんな薬があるでしょうか。以下が代表的なものです。

  • セフカペン(商品名:フロモックスなど)
  • セフジトレン(商品名:メイアクトなど)
  • セフジニル(商品名:セフゾンなど)
  • セフポドキシム(商品名:バナンなど)
  • セフテラム(商品名:トミロンなど)

 けっこう見たこと・飲んだことのある抗菌薬が多いのではないでしょうか? それではなぜ、これらの「経口第三世代セフェム」は飲まない方がいいのでしょうか?

理由1:飲んでも腸からほとんど吸収されない

薬が腸で吸収される割合にはけっこう差があるんです。(© Somsak Sudthangtum-123rf)

 「経口第三世代セフェム」は、せっかく内服しても、腸からほとんど吸収されずに便とともに排泄されてしまいます。これは致命的ですよね。

 いろいろな文献を見てみると、10数%~多くても50%程度しか、血中には移行しないようです(*1)。たとえば同じセフェム系抗菌薬のうち、第一世代であるセファレキシンだと90%以上だったりします(じゃあ第三世代じゃなくて第一世代にすればいいんだ!…というのは短絡的すぎますのでご注意ください。何よりもその感染症に適応があるかが大切になります)。

 10数%~50%程度しか血中に移行しないということは、逆に言えば、半分~8割程度が便に行っちゃっている、つまり、効いてほしい場所まで抗菌薬が十分に届いていないのです(例えば肺炎なら、血流に乗って肺に届いて効いてほしい…のに便に出ちゃうのです)。

 そのくせ、腸の中では大事な腸内細菌を殺してしまうので、おなかの調子を壊す人もいます。これでは、いったい何のために薬を飲んでいるのかわかりません。

 あまりに吸収されずに便に出てしまうため、だいたいウンコになってしまうことに着目したある専門家は、この抗菌薬を「DU薬(DAITAI UNKO)」と呼び親しんでいます(*2)(ちなみにこの方はウンコの専門家ではなく、感染症の専門家です)。

 「やっぱビフィズス菌っしょ!」とか言って、いろいろな乳酸菌のドリンクや健康食品に手を出している人ですら、抗菌薬を飲んで知らず知らずのうちに腸内細菌を殺してしまっていることがあるんです。

*1  M Lindsay Grayson, et al. Kucers’ The Use of Antibiotics Sixth Edition/David N Gilbert, et al. The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2015/バナン、セフゾン、メイアクト、フロモックス、トミロン各抗菌薬インタビューフォーム
*2 日経メディカルAナーシング 「忽那賢志の『感染症相談室』」

理由2:重症の下痢を引き起こすリスクがある

腸内細菌のバランスを乱し、やっかいな下痢を引き起こすことも。(© Katarzyna Białasiewicz -123rf)

 読者の皆さんの中には「私は便秘気味だから、ちょっと下痢するくらいの方がちょうどいいのよ!」という風変わりな方もおられるかもしれません。

 しかし、抗菌薬が引き起こす下痢は、軽症の下痢とは限りません。

 これは第三世代経口セフェムに限らず、どの抗菌薬でも起こり得ることですが、抗菌薬を飲み続けると、大切な腸内細菌が死んでいく一方で、「クロストリジウム・ディフィシル」という菌が生き残って増えてしまい、毒素による腸炎を引き起こすことがあるのです。これによって下痢などが起きるのですが、やっかいなことに、この菌は便と一緒に排出されて、周りの人にもうつります。さらに、高齢者や免疫機能が落ちた人では、重症化して死亡することもあるのです。

 単なる下剤とは全く性質が異なることが分かると思います。

理由3:そもそも飲まなくても治っていたはず

 「いや、でもよ、今までこの薬でオレの感染症は治ったぜ!?」という方もおられるでしょう。でも、本当にこの薬で治ったのでしょうか?

 かぜの場合、本来なら

 『かぜ⇒薬を飲まない⇒勝手に治る』

 はずです。なのに、薬を飲んでしまうと、

 『かぜ⇒経口第三世代セフェムを飲んだ⇒だから治った』

 と、患者さんも医師も勘違いしてしまうことが多いのです。

 これを何度も繰り返せば、「経口第三世代セフェムすげー!」となってしまうというわけです。

抜歯後の予防的な抗菌薬は不要!

 経口第三世代セフェムは、治療のみならず、予防投与という形で処方されることがあります。傷口があるような場合に、「感染症を起こすかもしれないから、あらかじめ抗菌薬を飲んで細菌を迎え撃ってやろう」ということですが、これもたいていの場合は不要なんです。

 予防投与で経口第三世代セフェムがよく出されるのは、抜歯後ですね。実は、抜歯後に抗菌薬を飲もう!なんていう推奨は、どこを探したって存在しません(科学的根拠がない個人的推奨ならたくさんあるかもしれませんが…。詳しくは後編でご紹介します)。

 ただし、例外的に、予防的に(抜歯前に)飲む必要がある方もいます。心臓の病気で人工弁を入れていて、弁に菌がくっつくリスクが高い方などです。こうした場合、抜歯前にアモキシシリン(商品名:サワシリンなど)というペニシリン系の抗菌薬を内服すれば良いようです(*3)。

*3  Wilson W, et al. Circulation. 2007 Oct 9;116(15):1736-54. Epub 2007 Apr 19.

じゃあどうすればいいの?

 さて、ここまで読んで、「使っちゃいけない!」「ダメ!」って言うけど、じゃあどうすればいいのよ?と思う人もいますよね。

 実際のところ、自分や周りの医師たちは、経口第三世代セフェムを一切使わずに診療している人がほとんどなんです。

 それはなぜか?

 それは、その先生方が「薬なんてそもそも要らないから」だとか「医者にかかったら命を落とすから」だとか、そんなことを考えているからという理由では決してありません。そんな間違ったことをいう人たちはいませんよ(ここ超大事!)。

 そもそも抗菌薬そのものが不要であったり、想定しうる全ての状況で、他にベターな選択肢が存在するためです。

 次回は、経口第三世代セフェムをよく処方されてしまう・内服してしまう具体的なシチュエーションを紹介し、実際はどのようにすれば良いか、根拠に基づいて紹介していきたいと思います。

 では、次回(「続・だいたいウンコになるので専門家に通称DU薬(DAITAI UNKO)とすら呼ばれる抗菌薬について知っておきたいこと」)をお楽しみに!

北和也
やわらぎクリニック副院長
北和也 2006年大阪医科大学卒。府中病院急病救急部、阪南市民病院総合診療科、奈良県立医科大学感染症センターなどで主に総合診療・救急医療・感染症診療に従事。手足腰診療のスキルアップのため、静岡県は西伊豆健育会病院 整形外科への3カ月間の短期研修(単身赴任)の経験もあり。
現在は、やわらぎクリニック(奈良県生駒郡)副院長として父親とともに地元医療に貢献すべく奮闘中。3姉妹の父親で趣味は家族旅行。