理由2:重症の下痢を引き起こすリスクがある

読者の皆さんの中には「私は便秘気味だから、ちょっと下痢するくらいの方がちょうどいいのよ!」という風変わりな方もおられるかもしれません。
しかし、抗菌薬が引き起こす下痢は、軽症の下痢とは限りません。
これは第三世代経口セフェムに限らず、どの抗菌薬でも起こり得ることですが、抗菌薬を飲み続けると、大切な腸内細菌が死んでいく一方で、「クロストリジウム・ディフィシル」という菌が生き残って増えてしまい、毒素による腸炎を引き起こすことがあるのです。これによって下痢などが起きるのですが、やっかいなことに、この菌は便と一緒に排出されて、周りの人にもうつります。さらに、高齢者や免疫機能が落ちた人では、重症化して死亡することもあるのです。
単なる下剤とは全く性質が異なることが分かると思います。
理由3:そもそも飲まなくても治っていたはず
「いや、でもよ、今までこの薬でオレの感染症は治ったぜ!?」という方もおられるでしょう。でも、本当にこの薬で治ったのでしょうか?
かぜの場合、本来なら
『かぜ⇒薬を飲まない⇒勝手に治る』
はずです。なのに、薬を飲んでしまうと、
『かぜ⇒経口第三世代セフェムを飲んだ⇒だから治った』
と、患者さんも医師も勘違いしてしまうことが多いのです。
これを何度も繰り返せば、「経口第三世代セフェムすげー!」となってしまうというわけです。
抜歯後の予防的な抗菌薬は不要!
経口第三世代セフェムは、治療のみならず、予防投与という形で処方されることがあります。傷口があるような場合に、「感染症を起こすかもしれないから、あらかじめ抗菌薬を飲んで細菌を迎え撃ってやろう」ということですが、これもたいていの場合は不要なんです。
予防投与で経口第三世代セフェムがよく出されるのは、抜歯後ですね。実は、抜歯後に抗菌薬を飲もう!なんていう推奨は、どこを探したって存在しません(科学的根拠がない個人的推奨ならたくさんあるかもしれませんが…。詳しくは後編でご紹介します)。
ただし、例外的に、予防的に(抜歯前に)飲む必要がある方もいます。心臓の病気で人工弁を入れていて、弁に菌がくっつくリスクが高い方などです。こうした場合、抜歯前にアモキシシリン(商品名:サワシリンなど)というペニシリン系の抗菌薬を内服すれば良いようです(*3)。
- 次ページ
- じゃあどうすればいいの?