米国で「鉄欠乏性貧血」が増加、食品中の鉄分減少も関係?
過去20年間で、6割以上の食品において鉄分含有量が減少
大西淳子=医学ジャーナリスト
鉄欠乏性貧血の指標であるヘモグロビン値と平均赤血球容積(MCV)の値は、男女ともに低下傾向を示し、年齢別では「成人男性」「成人女性」で低下傾向を示しました。
年齢で調整した鉄欠乏性貧血関連の死亡率は、1999年から2018年の20年間に、米国人10万人あたりおおよそ0.04から0.08に上昇していました。一方で、鉄欠乏性貧血以外の貧血(再生不良性貧血など)に関係する死亡はいずれも、25%以上の減少を示していました。
6割以上の食品で鉄分含有量が減少
一方、食事を介した鉄分摂取量はどう変化したのでしょうか。対象期間において、成人男性の鉄分摂取量はおおよそ6.6%、成人女性では9.5%減少していました。
その理由を探るために、研究者たちはまず、食品に含まれる鉄分の濃度に変化がなかったかどうかを調べました。対象とした国民栄養データベースは食品成分に関する信頼できる情報源で、今回は、1999年の報告と2015年の報告を比較しました。すると、62.4%の食品において、100gあたりの鉄分含有量が減少していたことが明らかになりました。例えば、牛肉、豚肉、ターキー(七面鳥の肉)、とうもろこしや、多くの果物と野菜で鉄分が減少しており、卵、米、シリアルのような栄養強化食品などでは鉄分は増えていました。
著者らは、米国人の食習慣の変化も鉄分摂取量の減少に関係している可能性があると考えて、米国でヘム鉄(肉や魚など動物性食品に含まれる鉄)の主な供給源となっている4種類の肉の摂取量の変化を調べたところ、牛肉の年間消費量は、1人あたり27.9kgから23.6kgへと15.3%減少していました。一方、豚肉の消費量はほぼ変化しておらず、鶏肉の消費量は、23.3kgから28.4kgへと21.5%増加していました。
以上をまとめると、米国では1999年から2018年の間に、鉄欠乏性貧血患者が増加し、関連する死亡率も上昇していました。その原因は、米国の食品に含まれる鉄分の減少と、食習慣の変化により、食事を介した鉄の摂取が減少したことにある可能性が示されました。
なお、米国で食べられている食品の87.3%は国内で生産されていることから、食品に含まれる鉄分の減少は、米国の農産物(家畜の飼料も含む)の鉄分含有量の減少を反映し、そこには、単位面積あたりの収穫量を増やす農法などが関係しているのではないか、と著者らは考えています。
また、赤身肉や加工肉は健康に好ましくない影響を与えるという情報が、米国人の食習慣を変化させて、鉄欠乏性貧血を増やしている可能性も示されました。
鉄欠乏性貧血は、日本人、特に月経のある女性にとってはなじみのある病気です。今回の結果は、食習慣によっては、男性でも鉄欠乏性貧血になることを示唆しました。定期的に健康診断を受け、貧血になっていないかどうかを確認すること、もし貧血が見つかったら、医師の指導を仰ぎつつ、鉄分摂取量を増やす努力が必要です。
ヘム鉄の方が吸収性はよいといわれていますが、非ヘム鉄(ひじきやほうれん草などの植物性食品に含まれる鉄)でも吸収されやすくすることはできます(厚生労働省からの、貧血を予防するための食生活に関するアドバイスはこちら)。
論文は、2021年4月10日付のThe Journal of Nutrition誌電子版に掲載されています(*1)。
医学ジャーナリスト
