「インフルエンザワクチンは乳児と中学生には効かない」報道は本当か
元になった論文を読み解く
大西淳子=医学ジャーナリスト

2015年8月30日、ある全国紙に「インフルワクチン:乳児・中学生に予防効果なし 慶応大など、4727人調査」という記事が出ました。生まれて初めての冬を迎える乳児がいる世帯や、高校受験を控えた中学生がいる世帯は、これを読んで「それならインフルエンザの予防接種はしなくていいや」と思ったかもしれません。
そこで、報道の元になった調査結果をまとめた論文(著者は慶應大学医学部の新庄正宜氏ら、PLOS ONE誌電子版2015年8月28日付掲載)を読んでみました。すると、正確には、この調査においては様々な要因がかかわっているために、生後6カ月~1歳未満の乳児と13~15歳の小児に対するワクチンの効果は「ない」とは言い切れず、「明確に示されなかった」というのが正しい解釈といえるのではないかと考えました。以下、少し長くなりますが調査の概要を紹介します。
A型のH3N2に対するワクチンは予想通りに作製できず
著者らは、2013~2014年シーズンのインフルエンザ予防接種が、日本の生後6カ月から15歳までの小児に対してどの程度有効だったのかを調べました。
この流行期に接種されたワクチンには、A型のH1N1pdm09ウイルス(2009年に新型インフルエンザとして世界的に流行したパンデミックウイルス)に対する免疫を与える株、A型のH3N2(香港型)に対する株、そしてB型の山形系統に対する株、という3種類の株が含まれていました。
実際に日本でこのシーズンに流行していたウイルスの43%はA型のH1N1pdm09で、ワクチンに含まれる株と一致していました。次に、21%を占めていたのはA型のH3H2の亜型でした。こちらは一見ワクチンとマッチしているようですが、この年のH3H2に対するワクチンは予想通りに作製できなかったため(卵馴化〔*1〕という現象が起きた)、流行したウイルスに対する効果は高くありませんでした。
残る36%の患者はB型に感染していました。B型は主に「山形系統」と「ビクトリア系統」の2系統に分類できます。このシーズンはB型に感染した患者の7割が山形系統、残りの3割はビクトリア系統に感染していました。
対象は生後6カ月から15歳までの4727人
研究者たちは、2013年11月9日から2014年3月31日までに、主に関東の22カ所の医療機関の外来を受診した生後6カ月から15歳までの小児のうち、38度以上の発熱があり、インフルエンザの迅速診断キットを用いた検査(IRDT;A型かB型を区別できる)を受けた患者を選出しました。
22施設のうち4施設は、A型、B型に加えてH1N1pdm09も区別できるIRDTを使用していていました。IRDTで陽性だった患者はインフルエンザ感染ありとし、陰性だった患者をインフルエンザ感染なしとして対照群にしました。
それらの患者の予防接種歴、接種回数、症状などを調査し、予防接種を受けたかどうかが曖昧だった患者を除外した4727人について分析しました。このうち876人がA型陽性で、うち66人はH1N1pdm09が陽性でした。1405人がB型陽性でした。2445人はIRDT陰性でした。