太った人の脳は10歳早く老化している
40歳を過ぎると標準体重の人との差が拡大
大西淳子=医学ジャーナリスト
太っている人は、標準体重の人に比べて脳が10歳分老化していることが、英ケンブリッジ(Cambridge)大学のLisa Ronan氏らの研究で明らかになりました。論文は、2016年7月27日付の「Neurobiology of Aging」誌電子版(*1)に掲載されています。
加齢に伴う脳の委縮に注目し、MRIで比較

肥満の人は、そうでない人に比べ、いろいろな面で老化が早いことが知られています。既に、肥満が脳の構造に影響を及ぼすことは示唆されていましたが、正常な加齢に伴って生じる脳の萎縮にも肥満が影響を与えるかどうかは明らかではありませんでした。また、肥満は、アルツハイマー型認知症のような神経変性疾患のリスクを高めるのではないかと考えられていますが、直接これを示したデータはありませんでした。
そこでRonan氏らは、MRI検査を使って、肥満の人の脳の構造的な老化、すなわち脳の容積の減少を、標準体重以下の人と比べてみました。
分析対象となったのは、英国在住の20歳から87歳までの、健康で認知機能も正常な、BMI(*2)が18.5以上の473人(平均年齢54歳、BMIの平均は26)です。それらの人々を、BMIが18.5以上25未満の「やせ/標準」群246人(51%)と、BMIが25以上30未満の「過体重」群150人(31%)、BMIが30以上の「肥満」群77人(18%)に分類し、やせ/標準体重群(246人)と、過体重/肥満群(227人)の間で、脳の老化の度合いを比較しました。
全員のMRI画像について、それぞれの白質の状態(白質の容積)と、灰白質の状態(皮質の厚み、表面積)を数値化しました。
大脳の中では、神経細胞の細胞体は、主に脳の表面を覆う灰白質の中に存在します。一方、灰白質の内側にある白質には細胞体はなく、それらから伸びて他の神経細胞に信号を送る神経線維が存在しています。
*2 Body Mass Index(体格指数)=体重kg/ (身長m)2