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肺活量が正常でも喫煙者の多くに呼吸器障害

喫煙しない人に比べて息切れ、慢性気管支炎、運動能力低下などが多い

 大西淳子=医学ジャーナリスト

肺活量が落ちていなくても肺の障害は進んでいます。(©Rancz Andrei-123rf)

 喫煙が引き起こす病気として広く知られているのが、肺癌と慢性閉塞性肺疾患(COPD;Chronic Obstructive Pulmonary Disease)です。落語家の桂歌丸さんは、50年以上喫煙を続けてきて、COPDと診断されました。近年では息切れがひどく、移動には車椅子が必要だそうです。

 COPDの診断には、主に肺活量計が用いられます。測定値が一定の値を下回るとCOPDと診断されます。では、COPDの診断基準を満たさない喫煙者は「健康」といえるのでしょうか。

 米国National Jewish HealthのElizabeth A. Regan氏らは、COPDではなくても、慢性的な喫煙経験者(過去に長く喫煙し、現在は禁煙している人を含む)の多くが、呼吸器に問題を抱えていることを明らかにしました。これらの人々は、喫煙したことのない人々に比べ、息切れや慢性気管支炎が多いだけでなく、運動能力も低下していたとのことです。論文は、米国医師会が発行するJAMA Internal Medicine誌電子版に2015年6月22日に掲載されています。

肺活量では測れない呼吸器症状が

 Regan氏らは、COPDの診断基準を満たさない喫煙者や、過去に喫煙していた人たちにも、肺活量測定では検出できない呼吸器症状があると仮定して、45~80歳の米国民を対象に研究を行いました。喫煙歴が「10箱-年」以上(1日の喫煙箱数×喫煙年数が10以上、すでに禁煙している人も含む)で、肺活量測定、胸部CTスキャン、運動能力検査(6分間に歩くことができる距離を測定)などを完了していた人々のなかから、COPDと診断されなかった4388人(非COPD群)と、最も軽いCOPDと診断された794人(軽症COPD群)を選び、喫煙したことのない108人と比較しました。

 慢性気管支炎は、喫煙したことのない人には見られませんでしたが、非COPD群の12.6%、軽症COPD群の15.7%に認められました。息切れを経験していた人は、喫煙したことのない人では3.8%だったのに対して、非COPD群では23.5%、軽症COPD群は22.7%に上りました。

 6分間に歩行できた距離の平均は、喫煙したことのない人たちが493mだったのに対し、非COPD群は447m、軽症COPD群は442mと低くなっていました。歩行距離が350mに満たなかった患者は、喫煙したことのない人では3.7%でしたが、非COPD群では15.4%、軽症COPD群では13.7%でした。

 非COPD群では、約4割の胸部CT画像に、肺機能の低下を示す変化が認められました。また、非COPD群では、呼吸器系の生活の質(QOL)が低く、5人に1人が呼吸器疾患に対する治療薬の処方を受けていました。

 今回得られた結果は、COPDの診断基準を満たさない喫煙経験者のなかに、呼吸機能の低下に関係する様々な問題を抱えている患者が少なくないことを示しました。そのまま喫煙を続ければ、やがてCOPDと診断される日がやってきます。呼吸機能を守るためには、より早い禁煙が必要です。

大西淳子(おおにしじゅんこ)
医学ジャーナリスト
大西淳子(おおにしじゅんこ) 筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。