トランス脂肪酸の制限で心筋梗塞などの入院が減少
ニューヨーク州での成果が明らかに
大西淳子=医学ジャーナリスト
揚げ物やマーガリン、ショートニング、それらを原材料に使ったパンなどに含まれるトランス脂肪酸(Trans-Fatty Acid)の外食産業などでの使用を2007年以降に制限したニューヨーク州の11の郡で、循環器疾患(心筋梗塞または脳卒中)による入院率が低下したことが明らかになりました。
日本人の7倍以上のトランス脂肪酸を摂取する米国

トランス脂肪酸は、不飽和脂肪酸と呼ばれる脂質の一種で、天然由来のものもありますが、多くは工業由来のものです。具体的には、(1)ドレッシングなどの植物油を精製する際に、脱臭処理の工程で生じるもの、(2)植物油に水素を加えて固形のマーガリンやショートニングなどを製造する際に生じるもの、(3)揚げ物など、油を高温で加熱する調理のときに生じるもの、に分けられます。
人工的に生じたトランス脂肪酸は代謝されにくく、循環器に有害な影響を及ぼすことが知られています。トランス脂肪酸の摂取量が多い人では、脳卒中、冠動脈疾患、心臓突然死のリスクが高いという報告があります。
そこで、国民のトランス脂肪酸摂取量が、日本人の7倍以上(*1)となっている米国では、10年ほど前から、地方自治体レベルでトランス脂肪酸の摂取を減らす試みが行われてきました。ニューヨーク州の11の郡でも、2007年から2011年までの間に、トランス脂肪酸の使用の制限を開始しました。
これに遅れて、米食品医薬品局(FDA)は、米国民の食事から、天然以外のトランス脂肪酸をほぼすべて排除するための政策を2018年に実施することを公表しています(*1)。しかし、トランス脂肪酸の摂取を制限することが、住民の健康にもたらす利益について検討した研究は、これまでありませんでした。
そこで米Yale大学医学部のEric J. Brandt氏らは、ニューヨーク州を構成する郡の中で、トランス脂肪酸の制限を行った郡と行わなかった郡の住民を対象に、循環器疾患(心筋梗塞または脳卒中)による入院率を比較することにしました。