血圧の上下差が大きいとアルツハイマー病になりやすい
血管の老化が発症に関係か
大西淳子=医学ジャーナリスト

上の血圧(収縮期血圧)から下の血圧(拡張期血圧)を引いた値を「脈圧」と呼びます。上が120mmHg、下が80mmHgなら、脈圧は40mmHgになります。脈圧は、動脈硬化が進むにつれて上昇するので、脈圧が高いということは、血管系が老化していることを意味します。脈圧が高い人は、狭心症や心筋梗塞、脳卒中になりやすいこともわかっています。
米国の南カリフォルニア大学のDaniel A. Nation氏らはこのほど、脈圧が高い人ほどその後にアルツハイマー病(AD)を発症する可能性が高いことを明らかにして、米国医師会が発行するJAMA Neurology誌電子版(2015年3月30日付)に報告しました。
分析の対象になったのは、米国に住む55~91歳の男女で、認知機能は正常、または、軽度認知障害だった877人でした。軽度認知障害は、健康な人と認知症患者の中間の段階で、記憶などの認知機能の一部に問題はありますが、日常生活に支障がない状態をいいます。多様な患者によって構成されますが、いずれ進行して認知症と診断される人が含まれています。
研究者たちは、これらの人々の血圧を測定するとともに、腰椎に針を刺して脳脊髄液を採取し、その中に含まれるADバイオマーカー(別掲記事参照)の量を測定しました。それから約28カ月間追跡して、アルツハイマー病を発症したかどうかを調べました。
Nation氏らは今回の研究で、55歳以上の人々において、ADバイオマーカーの量が正常域からはずれている人(バイオマーカー陽性の人)の脈圧が高いことを明らかにしました。特に、80歳以上の超高齢者では、バイオマーカー陽性者とバイオマーカー陰性者の脈圧の差は顕著で、脈圧が高い人は、より短期間のうちに認知症と診断されていました。
こうした結果は、ADバイオマーカーの量を測定するかわりに、脈圧をアルツハイマー病発症の予測に利用できる可能性を示しました。
もしかしたら、血管の老化を遅らせるような生活を送れば、循環器疾患のみならずアルツハイマー病も予防できるかもしれません。
アルツハイマー病については、脳脊髄液中に含まれている複数の蛋白質がバイオマーカーとして役立つことが示されています(アルツハイマー病患者で明らかに値が上昇するマーカーと低下するマーカーがあります)。軽度認知障害よりさらに手前の段階の、認知機能にほとんど問題がない人々であっても、脳脊髄液中のバイオマーカーの量を測定すれば、将来アルツハイマー病を発症するかどうかを予測できるという報告があります。
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