PM2.5は不安障害のリスクを高める
喘息や気管支炎だけではない健康被害の懸念
大西淳子=医学ジャーナリスト

TVの天気予報コーナーで毎朝、大気汚染物質PM2.5(微小粒子状物質;粒径2.5μm 以下)の濃度の予測値が示されるようになってから、すでに何年もたっています。PM2.5は粒子のサイズが非常に小さいため、肺の奥深くにまで入り込みやすく、喘息(ぜんそく)や気管支炎といった呼吸器の疾患を引き起こします。また、狭心症、心筋梗塞などの循環器疾患との関係も報告されています。大気中のPM2.5濃度の高い地域で長期間生活すると、死亡リスクが高まる可能性さえあると考えられています。
先日、イギリスのBMJ(British Medical Journal)誌の電子版に、PM2.5濃度の高い地域で生活している人ほど不安障害が多い、という気になる研究結果が掲載されました(BMJ誌電子版2015年3月24日付)。報告したのは、米国ハーバード大学公衆衛生大学院のMelinda C Power氏らの研究グループです。
居住地域のPM2.5濃度が高いほど、「不安症状あり」が増加
不安を主な症状とする複数の精神疾患をまとめて不安障害といいます。不安障害には、パニック障害や、恐怖症、(心的)外傷後ストレス障害(PTSD)、全般性不安障害などが含まれます。不安障害の原因は明らかではありませんが、本人が持つ素因や、精神的に辛い体験、環境要因などが発症に関係していると考えられています。
Power氏らは、健康に関する調査に数十年間参加してきた米国の女性看護師のなかから、住所を利用して居住地域のPM2.5の濃度を経時的に推定でき、かつ2004年に不安症状に関する評価を受けていた約7万人を選んで分析しました。不安症状を評価した時点の対象者の年齢は57歳から85歳までで、平均は70歳でした。このうち15%に、高度の不安症状が認められました。
分析の結果、居住地域の空気中のPM2.5濃度は、高度不安症状と関係していました。不安症状を評価する前の1カ月間、3カ月間、6カ月間、15年間に経験したPM2.5濃度が高いほど、「高度不安症状あり」と診断される可能性は高くなっていました。
Power氏らは、「PM2.5による大気汚染を減らせば、不安症状に苦しむ患者を減らせる可能性が示された」と述べています。
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