コロナ対策のアルコール消毒薬 子どもの目に入る事故が増加
フランスで前年同時期の約7倍に
大西淳子=医学ジャーナリスト
2020年の患者のほとんど(97.8%)は軽症で、報告された症状は痛み、ヒリヒリ感、結膜の充血(*2)でした。6人が中等症で、それらの患者は限定的ではあるものの角膜炎(*3)を発症していました。
2020年の事故のうち、公共の場で発生したことが明らかだったのは63件で、発生場所の内訳は、店舗や商店街が47件、レストランが5件、オープンスペースが5件、映画館が1件、スポーツエリアが1件、プールが1件で、残りの3件はそれ以外の場所でした。すべて新型コロナウイルスの感染予防策として設置されていた、センサー式またはフットスイッチ式のディスペンサーが原因でした。
続いて、アルコール消毒薬が目に入って眼科専門病院を受診した小児患者についても調べたところ、2019年には、生後16カ月の男児1人だけでしたが、2020年には16人(平均年齢は3.5歳で、10人が男児)いました。
2020年の患者のうち8人に、角膜潰瘍と結膜潰瘍のいずれかまたは両方が認められ、うち6人では、角膜表面の半分以上が潰瘍化していました。症状が深刻だった2人の患者は、全身麻酔での羊膜移植(*4)を必要とし、うち1人はこの治療を2度受けていました。
フランスで最初のロックダウンの段階的な解除が始まったのは2020年5月11日で、アルコール消毒薬が小児の目に入ったという報告は、それ以降に増えていました。その理由は主に、公共の場所に設置されるアルコール消毒容器の数が増えたこと、それらの多くが小児の顔の高さに設置されていたことにあると考えられました。また、消毒薬がジェル剤の場合には粘度が高く、曝露後は速やかに目を洗う必要があるのに、洗面所をすぐに見つけることが難しい点も関係している可能性があります。
著者らは、「手指消毒のためのデバイスを誰もが安全に使用できるよう、設置場所や設置方法などを工夫すると共に、小さな子どもを持つ親や保育者に対して、注意喚起を行う必要がある」と述べています。
*3 角膜:黒眼の表面を覆う透明な組織
*4 羊膜移植:羊膜とは、子宮内にいる胎児が包まれている膜(卵膜)の一番内側の部分をいう。予定帝王切開で分娩する女性から提供を受けたものが移植用に保存されている。羊膜は、薄くて伸縮性に富み、移植しても拒絶反応は起こりにくく、炎症を抑え、傷の修復を促進する働きを持つ。皮膚の熱傷の治療や、術後に内臓の癒着を防止する目的に、また、難治性の目の病気の治療にも用いられている。
2ページ目冒頭「2020年の患者のほとんど(232人中269人、97.8%)」の人数記載に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです。[2021/4/23 18:30]
医学ジャーナリスト
