若いうちからの腎機能低下は脳にも影響
認知機能の低下が早まる可能性、20~40代男女を長期間追跡した観察研究
大西淳子=医学ジャーナリスト
若年成人期から中年期にかけて腎臓の機能が低下した人は、その後、認知機能が低下するリスクが高いことを示唆する研究結果が報告されました。

末期腎不全には至らない腎機能低下も、認知機能を下げる?
人工透析や腎移植が必要になる末期腎不全患者には、認知機能の低下が多く認められ、末期腎不全患者の認知機能低下リスクは、同年代の人々に比べ約3倍になるといわれています。近年、末期腎不全まで進行していないレベルの腎機能の低下もまた、脳には有害であり、認知機能の低下を招く可能性があることが明らかになってきました。
一般に、加齢とともに腎機能は低下しますが、その速度は人によって異なります。また、年齢が若いうちからの腎機能の低下が、その後の認知機能に及ぼす影響は、これまで、明らかではありませんでした。
今回、米Northwestern大学などの研究者たちは、若いうちに腎機能が低下すると、認知機能の低下も早まるのではないかと考えて、26歳から44歳までの成人を20年間(登録からは30年間)追跡し、腎機能と認知機能の関係を検討しました。
対象にしたのは、心血管疾患のリスクと発症について検討するための観察研究「CARDIAスタディ」に参加した、米国の18~30歳の男女です。これらの人々は、1985年から1986年に米国で登録され、最長30年追跡されていました。
参加者は登録から10年目の受診時点から5年ごとに、腎機能の指標である血清クレアチニン値と、尿たんぱく量の指標である尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)の測定を受けていました。研究者たちは、血清クレアチニン値を利用して、老廃物を尿に排出する腎臓の能力を示す、推算糸球体ろ過量(eGFR)を算出しました。
さらに30年後の時点で、参加者は、幅広い認知機能の評価(実行能力を調べるStroop Test、言語記憶を評価するレイ聴覚性言語学習検査〔RAVLT〕、思考、反応、動作などの精神運動速度を調べるDSST〔Digit Symbol Substitution Test〕、軽度認知障害を検出するためのMoCA〔Montreal Cognitive Assessment〕、文字流暢性検査、カテゴリー流暢性検査)を行いました。研究者たちは、それぞれの検査のスコアを求めるとともに、それらを総合したスコアも算出しました。