日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

「身の危険」を感じたとき瞬時に反応するメカニズム

第18回 筋肉を動かす2つの指令伝達経路

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、筋肉という組織が身体の中に組み込まれたとき、どう動くかについて。筋肉を動かすための指令の伝達経路は、大きく分けて2つあります。1つは「随意筋収縮」、もう1つは「反射」です。

筋肉を操るための仕組み

 前回までは、主に筋肉そのものの構造や特性、筋肉が力を発揮する仕組みなどを説明してきました。今回からのテーマは、その筋肉という組織が身体の中に組み込まれたときにどう働くか。筋肉を操る仕組みについてのお話です。

 筋肉を動かすための指令の伝達経路は、大きく分けて2つあります。1つは「随意筋収縮」。これは大脳の運動野という部分から筋肉に指令が行く、オーソドックスな経路です。もう1つは「反射」。これは意識が関与せずに、神経と筋肉だけで筋肉が自動的に働くシステムです。

 いずれにしても筋線維は必ず神経とつながっていて、それを伝わって指令が届くことにより動きます。ただし、1本の神経が1個の筋線維とつながっているわけではありません。神経は脊髄の中の前角という場所にある神経細胞から突起を伸ばし(これを「神経線維」、または「軸索」といいます。また神経と神経との結合部を「シナプス」といいます)、この軸索がいくつにも枝分かれしながら、それぞれが筋線維まで伸びていきます。そして複数の筋線維につながり、支配しています。この筋線維を直接支配している神経のことを「運動神経」(運動ニューロン)といいます。

 1つの運動神経と、それが支配する筋線維の集団をまとめて「運動単位」(モーターユニット)といいます。なぜ運動単位と呼ぶかというと、大もとにある神経細胞が活動し、神経線維に沿って指令を送ると、そこにつながっている筋線維が全部同じように収縮するからです。ひとたび指令が届いたら、ある筋線維は動いていて、ある筋細胞はサボっているということはありません。1つの運動単位に所属している筋線維は、等しく活動します。どんなときも1つの単位として働くので、運動単位なのです。

 筋肉の中には、その運動単位がたくさんあり、それぞれが神経からの指令を受け取ることによっていろいろな動きが可能になります。「運動神経がいい」というのは、正確にこの運動神経のことをいっているわけではありませんが、運動神経が筋肉の動きや動作を直接操っているのは事実です。

図 運動単位の構造
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運動単位のサイズによって発揮される力も変わる

 続いては、運動単位の大きさの話です。運動神経は複数の筋線維を支配していると述べましたが、その数はどのくらいなのでしょうか。

 運動単位にはさまざまなサイズがあることがわかっています。小さなものは数十本、大きなものになると2000 本以上の筋線維を支配しているといわれています。

 1個の神経細胞が支配する筋線維の数のことを、「神経支配比」といいます。神経支配比が小さなもの、つまり含まれる筋線維の数が少ないものを「小さな運動単位」、たくさんの筋線維を含む大きな集団を支配しているものを「大きな運動単位」と呼びます。大きな運動単位が活動すれば大きな力が出ます。それと比較して小さな運動単位は、小さな力しか発揮できません。

 軍隊に例えると、神経細胞が司令部のようなもの。その号令が運動神経によって伝えられ、すべての隊員が同じように活動する。そして、その隊の大きさ(隊員の数)によって、発揮される力も変わってくるわけです。

緊急時に働く「反射」

 大脳の運動野(運動中枢)から発した指令が、運動神経細胞を経由して、最終的に複数の筋線維に届けられる。日常生活やスポーツ動作ではそのような仕組みが一瞬にして働いているわけですが、ここまで説明したのはオーソドックスな指令伝達の経路。脊髄の中にはもう1つ、大脳の運動野から下りてくる神経とは別に、筋線維を活動させる経路が存在しています。

膝頭の下を叩くと足が前方に跳ね上がる「膝蓋腱反射」も伸張反射の1つ(©Simone van den Berg-123rf)

 筋肉の中には、筋肉の長さ変化を感受する筋紡錘という受容器があります。その筋紡錘から脊髄の中の運動神経細胞に直接信号が戻ってくる経路があり、筋肉が引っ張られると、その信号によって自動的に筋肉が活動するという仕組みがあります。これが前述した「反射」の1つで、「伸張反射」と呼ばれるものです。

 反射は脳とはほとんど関係なく、筋肉(筋紡錘)が引っ張られれば収縮が起きるという非常に短いループで反応が起こるので、結果として動作が早くなります。身の危険を感じた時に瞬時に行動できるように、生物にはこうした仕組みが備わっているのでしょう。ただし、大脳からの指令によって、こうした反射の「感度」が変わることもあります。

 筋肉を伸ばされたときだけでなく、熱いものを触ったとき、痛みを感じたときなども同様に反射が起こります。「熱い!」と脳で考えてから腕を引っ込めるのでは遅すぎますし、とがったものに触れて、「これは痛みを感じる物体だ」と思ってから動いたのでは大ケガをしてしまう危険性があります。

 そうならないように、強い刺激が末梢神経に伝わったときには、何も考えなくとも手足を引っ込めるように身体はできています。

 このような生物の安全を保つ役割を担っている反射も、神経と筋線維による運動単位によって行われているのです。

筋肉の中には、運動単位がたくさんあり、
それぞれが神経からの指令を受け取ることによって
いろいろな動きが可能になる。

(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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『石井直方の筋肉の科学』
B5判、140ページ、1500円+税 発行/ベースボール・マガジン社

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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。