試合前に低酸素室に入るとパフォーマンスが上がる?
高酸素環境以上に、低酸素環境でのトレーニングに関するデータは数多く発表されています。たとえば富士登山をする際に高山病になってしまう人がいますが、私の研究室で調べたところ、5合目で2時間ほど過ごし、それから再び登りはじめると、高山病にかかりにくくなることわかりました。これは低酸素環境に対する“慣れ”が原因と考えられます。
この実験から、持久的な競技を行う際の戦略も見えてきます。持久力を高めるために、あらかじめ低酸素室でトレーニングをする必要はなく、試合前に低酸素室に何時間か入っているだけでパフォーマンスが上がる可能性があるのです。真偽はまだ解明されていませんが、そうした応用のアイデアが挙がってきているのは事実です。
このように、可能な範囲で体の中の環境をコントロールすることが、運動のパフォーマンスに結びつくことは間違いないと思います。ただ、それは不公平ではないかという議論も一方にはあります。オリンピックなどの会場に低酸素室を持ちこめる国と、そうでない国では決定的な差が出てきてしまう可能性があるからです。
低酸素室に限らず、高所トレーニング、高酸素カプセルといったテクニックも競技力を高めるための“物理的な手段”ということで、すべてドーピングにするべきという考え方も出てきています。今後も、この議論は続いていくでしょう。