筋肉を太くするのに有効なタンパク質の量には上限がある
続いては、私の研究室の学生が取り組んでいるテーマで、タンパク質を一度に摂取した時、そのうちどこまでが筋肉になるかというタンパク質代謝系に関する問題。その内容が、最近、学術的にちょっとした注目を集めています。
タンパク質(アミノ酸)を摂取すると筋肉の中でのタンパク質合成が上がるということは、この連載で何度か説明してきました。では、摂取する量を増やせば増やすほど合成が上がるかと言うと、そうではないことがわかってきています。あるところで合成は頭打ちになり、それ以上タンパク質を摂ってもあまり意味がないようなのです。
頭打ちになる量は20g前後というデータも報告されています(ただし、高齢者は40g前後まで合成が上がっていくようです)。これは普段の食事だけでなく、トレーニング後のプロテインの補給でも同様で、どんな状況であっても基本的には20gがタンパク質量の上限値であるようです。
この現象は「マッスルフル」と呼ばれています。筋肉が“お腹いっぱい”の状態ということなので、それ以上のタンパク質を摂っても筋肉は食べられないわけです。40~50gの量を摂っても吸収はされますが、それが筋肉の材料になっているわけではなく、余分なものはエネルギー源として燃やされてしまいます。
つまり、トレーニング後に1kgのステーキを食べても、筋肉の材料として使われるのはほんの一部に過ぎません。ごはん・納豆・生卵を食べるだけでも15gほどのタンパク質を摂取することができますし、それにシャケの切り身を一切れも加えれば20gに達するので、普段の食事で十分ということになります。
そうなるとプロテインも不要ということになってしまいますが、タンパク質は合成を上げるスイッチでもあるので、20~30gを一日に複数回摂るためには便利で効果的な手段と言えます。ただ、あまり多くの量を摂る必要はないと考えていいでしょう。
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この連載は今回が最終回となります。ご愛読いただき、ありがとうございました。今回の内容のように「筋肉学」は日進月歩です。これからも筋肉の知識と魅力を、最新情報も交えて皆さんにお伝えしていきたいと思います。では、またお会いしましょう。
「筋⾁学」は⽇進⽉歩。
これからも筋肉の知識と魅力をお伝えしていきます。
(構成:本島燈家)
東京大学教授

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