日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

体重を落とすためには「よく動く」ことが有利なワケ

第17回 筋肉に備わる「筋収縮」と「熱発生」の関係

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、筋肉における「仕事」と「熱」の関係について。筋肉に負荷をかけた運動よりも効率的に熱の産生を高める仕組みを取り上げます。

力学的パワーと熱との関係

 等尺性収縮をしているとき、筋肉は仕事をしていないということを連載13回「運動パフォーマンスにおける筋の力学的パワー」で書きました。仕事がゼロということはパワーもゼロ。単純に考えると、消費エネルギーもゼロということになり、無限に力を維持できるということにもなります。

 しかし、そんなことは実際にはあり得ません。等尺性収縮をしているとき、筋肉は力学的パワーを発揮しない代わりに「熱」という手段で、エネルギーを発散しているのです。

「筋肉にかける負荷を小さくして、たくさん動くようにすると熱生産が大きくなるので、エネルギー消費も大きくなります」(石井)。(©Cathy Yeulet-123rf)

 筋肉は、これまで述べてきたような力学的なエネルギーを発揮することと、働きながら熱を生産するという2つの役割を担っているということになります。つまり、筋肉全体のエネルギー消費を考えるときは、「仕事」と「熱」という2つの視点で見る必要がある。仕事+熱=全エネルギーということになるわけですね。

 自動車のエンジンやモーターも同様で、これらも動いていれば熱くなります。そして、放出する熱に比べてよりたくさんの力学的仕事をするものは、熱効率のよい機械ということになります。ガソリンエンジンなどは非常に高い熱が出るため、冷やしながら使わないとオーバーヒートしてしまいます。熱効率としては20~30%でしょう。

 筋肉も平均的な熱効率は20~30%、一番効率のよい部分で50%程度だと思われますが、実際の熱効率は力に依存して変化します。例えば、等尺性収縮で力だけ出しているときは熱しか出ないので、熱効率はゼロ。無負荷で収縮しているときも同じです。

 では、筋肉が出す力学的パワーと熱はどういう関係にあるのでしょうか。これをA. V. ヒルというノーベル賞も受賞した生理学者が詳細に調べました。

 等尺性条件で筋肉にさまざまな負荷をかけて収縮を行わせ、熱発生率(1秒間当たりにどのくらい熱が発生するか)を測定。その値に、連載13回で解説した力-速度関係から導き出した力学的パワーを加えると、全エネルギー発生率が求められます(図参照)。そのことをヒルは1938年の論文で発表しました。この研究の結果、等尺性収縮で速度が出ていない場合、熱の発生は一番小さいということがわかりました。

図 筋とモーターの力とエネルギー発生率との関係
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等尺性収縮をしている時は熱生産率も小さい

 等尺性収縮をしているときは熱しか出ませんが、熱生産率そのものも小さい。つまり、等尺性で頑張っているとき、筋肉はエネルギーをほとんど使っていません。エネルギーをセーブして、力を出しているわけです。負荷が小さくなり、スピードが上がっていくに従って、どんどん熱生産が増えていく。無負荷で短縮しているときは非常に大きな熱が出ます。

 力を維持しながらジッとしているというのは、生物が生きていく上ではかなり頻繁に行われている行動です。ヒトがじっと立っているときも、姿勢を維持するための筋肉活動は持続されています。その状態で筋肉が熱をどんどん出してしまうと、荷物を持って立っているだけで汗だくになってしまうということが起こります。そうならないように、ある状態をキープしているときは、エネルギーを極力使わずに力を出し続けられるように、筋肉は設計されているのです。

 前ページでの図には、その対極として直流モーターのグラフが出ていますが、直流モーターは最大トルクの50%のところで力学的パワーが最大になります。そこからさらに大きな力を加え、モーターの動きが止まったところが、実は熱生産が最も大きくなります。ですから、過度な負荷をかけ続けると、そのうち煙が出てきて焼き切れてしまうのです。その半面、どんなに速く回転していても、負荷が小さい状態であれば熱生産が小さいのでオーバーヒートは起こしません。

エアロビによるダイエットも筋肉の特性を利用している

 このように、筋肉と直流モーターとは、全く逆の性質をもっています。仮にモーターを筋肉の代わりにヒトの身体に入れてみたとすると、ただ姿勢を維持しているだけで煙が出てくるということになってしまいます。そうならない筋肉は、生物の身体に非常にマッチした熱特性をもっているといえます。

 そのことはヒルの研究によって70年以上前にわかったのですが、筋肉のようなモーターの作り方は今のところわかっていません。そういうモーターが作れるようになれば、ケガなどによって筋肉が使えなくなってしまったとき、人工の筋肉として埋め込んで肩代わりさせることも可能になるはずです。ただ、そんな日が訪れるまでには、まだしばらく時間がかかるでしょう。

 話は少し変わりますが、ダイエットのために運動をしようとした場合は、こうした筋肉の特性を大いに利用することができます。筋肉にかける負荷を小さくして、たくさん動くようにすると熱生産が大きくなるので、エネルギー消費も大きくなります。重いものを持ってジッとしているときはあまり汗をかきませんが、何も持たずに動いていると汗がダラダラと流れ落ちてきます。エアロビクスなどは、その特性によって効果を生み出しています。ですから、体重を落としたい人は筋肉に負荷をかけすぎずによく動くようにするといいでしょう。

(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。