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“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

「上り」より「下り」の坂で筋肉痛になる理由~伸張性領域で起こること(2)

第16回 力のコントロールは動員する筋線維の比率で決まる

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

 負荷を下ろすときに30%しか筋線維を使っていない場合、筋肉全体にとっては大した労力ではないかもしれませんが、実際に仕事を担当している30%の筋線維は持っている力をフルに発揮しているはずなので、これは“過大な負荷”ということになります。

 働いている筋線維にとっては、下ろすスピードが速いか遅いかはあまり関係がない。負荷が軽いか重いかも同様です。負荷が軽くなれば、筋肉全体としては楽になっているように感じますが、ブレーキをかけながら必死に頑張っている筋線維には最大筋力を超える負荷がかかり、無理やり引き伸ばされるという、非常に大きな力学的刺激が加わっています。我々はあまり意識することがありませんが、筋線維単位で見た場合と、筋肉全体で見た場合とでは、ずいぶん状況が違うわけですね。

筋肉全体は活動していても 間引かれた筋線維は休んでいる

 筋線維が間引かれているということは、働いていない筋線維もあることになります。休んでいるときの筋線維の力発揮はゼロ。筋肉全体は活動していても、その中にある個々の筋線維の活動レベルは0か1という、デジタル的なシステムになっています(細かく見ると、アナログ的な周波数によって筋肉の活動はコントロールされている面もありますが、大まかには0か1といっていいでしょう)。

 わかりやすくするために、運動会の綱引きに例えてみましょう。Aチーム50人とBチーム50人が力を出し合って拮抗している状態が等尺性収縮(全員が同じ力を発揮すると仮定した場合)。Aチームが40人に減ってしまうと、当然Bチームは綱を自軍の陣地に引き込むことができます。このときのBチームが短縮性収縮ということになります。

 一方、40人になってしまったAチームは、力を出していながらもズルズルと引っ張られてしまいます。さらに、それが30人に減ってしまうと、個々はそれまでと全く同じ力を発揮していても、もっと速いスピードでどんどん引っ張られてしまう。このような数の調整が筋肉の中では行われている、ということです。

 上り坂よりも下り坂のほうが筋肉痛が起きやすいのも、このメカニズムに起因しています。坂を下るという程度の負荷は筋肉全体にとっては決して大きくはありませんが、筋線維が間引かれた状態での伸張性収縮を繰り返しているために、動員されている一部の筋線維にとってはかなり過酷な労働が課せられているということになり、ダメージも大きくなるわけです。

 ただ、現在のところ、間引かれる筋線維がどのような基準で選ばれ、どのように使い分けられているのかはわかりません。一部の筋線維が弱ってきたら、それらを休ませて別の筋線維にバトンタッチするという仕組みも考えられますが、そのあたりについては今後の研究を待つ必要があります。

(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
“筋肉博士”石井直方先生の連載が1冊になって好評発売中!
『石井直方の筋肉の科学』
B5判、140ページ、1500円+税 発行/ベースボール・マガジン社

 日経Goodayのサイトでご紹介している「“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学」の連載が本になりました。

 筋肉の基本的な仕組みから、理想的なトレーニング方法まで、専門的に解説。

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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。

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