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“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

筋肉にリミッターがかかる仕組み~伸張性領域で起こること

第15回 「頑張れる人」ほど要注意、腱断裂などのケガの危険性も

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

 それは、2倍もの力を出してしまうと、筋肉に大きなダメージを負ったり、腱や靱帯が切れてしまったりという事故が起こりかねないからだと考えられます。そのため、筋肉が急激に引っ張られ、過大な力を出さなければいけない状況になったときは、神経に抑制がかかるようにできているのです。

 どういうことが起こるかというと、動員されている筋線維の数が減ってしまうのです。すると、最大筋力のレベルが通常よりも下がってしまうため、ギブアップが早く起こるということになります。

 我々が肘の屈筋(上腕二頭筋)で実験したところ、平均値で1.5倍程度という数字が出ました。等尺性最大筋力の50%増し程度のところで限界に達した人が多かったのです。

 とはいえ、かなり個人差があり、早くギブアップしてしまう人と、かなり頑張れる人とがいました。これは筋肉の活動に対する抑制が早く起こる人か、遅く起こる人か、というタイプによるものと考えていいでしょう。

リミッターのかかり方が、遅い人は危ない

単関節動作では、1RMの1.3~1.4倍くらいまでは誰でもゆっくり下ろすことができる。
[画像のクリックで拡大表示]

 ここまで述べてきたように、筋肉には伸縮性収縮のときにより大きな力を発揮できるという特性があるため、ウェイト・トレーニングで持ち上げることができないバーベルでも、ブレーキをかけながら下ろすということは可能になります。

 例えば、肘の屈曲のような単関節動作では、1RMの1.3~1.4倍くらいまでは誰でもゆっくり下ろすことができます。

 しかし、いろいろな筋肉が関わってくる複雑な動作となると、なかなかそうはいきません。ベンチプレスのような複合関節動作では、1.3倍は厳しい。せいぜい1.2倍ほどではないでしょうか。

 また脚部の筋肉の場合は、さらに早く抑制がかかってしまいます。膝の伸筋などでは、等尺性最大筋力の10%増しほどまでしか筋力が出ない場合が多いようです。

 それは、大きな筋肉が大きな筋力を出してしまうと壊れる危険性が高いため、筋肉の働きそのものに抑制がかかりやすくなっているのだと考えられます。正確なメカニズムはわかりませんが、おそらくそれは神経的な反応として起こるのではないでしょうか。

極端に頑張れる人(リミッターがかかりにくい人)は危ない

 ある一定レベル以上の力を発揮させられたまま筋肉を使い続けると、ケガにつながる恐れが大きいので、安全面から早めにリミッターがかかる。つまり、抑制の閾値(いきち)が低く設定されているのだと推測されます。

 そのように、パーツによってリミッターのかかりが早い筋肉、遅い筋肉があります。また、リミッターがかかりやすい動作と、かかりにくい動作もあります。さらに、リミッターのかかり方には個人差もあるため、一概に数値に表すことは簡単ではありません。

 ただ1ついえることは、極端に頑張れる人(リミッターがかかりにくい人)は危ないということ。腱断裂などのケガをする危険性が高いかもしれないので、注意が必要でしょう。

(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
“筋肉博士”石井直方先生の連載が1冊になって好評発売中!
『石井直方の筋肉の科学』
B5判、140ページ、1500円+税 発行/ベースボール・マガジン社

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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。

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