パワーのピークは最大筋力の30~35%
では、筋肉の力学的パワー(仕事率)を求めてみましょう。パワーとは1秒間当たりに筋肉がどのくらい仕事をするかということですから、最も単純な計算式は力×距離÷時間になります。仮に筋肉が出す力が一定だとすると(等張力性条件)、力は時間に依存せずに一定になるので、力×(距離÷時間)。距離÷時間は速度ですから、等張力性条件のもとではパワー=力×速度ということになります。
前回では肘の屈筋で調べた力-速度関係のグラフを掲載しましたが、この双曲線状のグラフができていれば、あとは力(横軸)と速度(縦軸)をかければ、自動的に力とパワーの関係をグラフにすることができます。これは下図にあるように、鍋を伏せたような、上に凸の放物線を描きます。このグラフからもわかるように、等尺性最大筋力を発揮しているときは、力は最大でも速度がゼロなのでパワーもゼロ。また、無負荷最大速度のときは、力がゼロなのでパワーもゼロになります。
動作に関わる筋肉が増えて複合関節動作になると、話は複雑になるのですが、肘を曲げる、膝を伸ばすといった単関節動作においては力-速度関係はきれいな双曲線になり、そこからパワーを導き出していくと最大筋力の30~35%くらいの力を出しているときにパワーがピークになることがわかります。これは、ほとんどすべての筋肉に共通している特性です。
筋肉の性能をフルに発揮させるには?
ということは、筋肉という組織を最も効率よく使う、筋肉の性能をフルに発揮させるというエンジニア的な観点から負荷の設定を考えると、それは最大筋力の30~35%の負荷ということになります。例えば、自転車で速く走ろうとする場合は、最大筋力の30~35%になるようなギアを選ぶのが、最も効率的といえます。
パワーが大きいということは、筋肉が一定時間にたくさん仕事をするということ。これは「筋力発電」のような話にも発展していきます。省エネを狙って、自転車をこぐことで自宅の電力をまかないたいと考えたとしましょう。ピーク電力を高くしたい場合は、ペダルの重さをこぐ人の最大筋力の30~35%になるように工夫すればいいわけです。ギアを軽くしてスピードを高めすぎてもダメですし、逆にギアを重くしてゆっくり力を出すようにするのもダメ。3分の1くらいの力が一番いいのです。
前回も触れましたが、ある機械に適合したモーターを探すときも、このような視点をもつことが重要です。モーターの力-速度関係は筋肉と違って双曲線ではなく直線状になり、最大のパワーが発揮されるのは、そのモーターがもつ最大の力の約50%になります。ですから、その機械を動かすために必要な力が、そのモーターの最大の力の半分くらいになっていると、目的にフィットしたモーターということができます。
人間を動力として使うことを考える場合も、基本的な戦略はモーターと同じ。その機械を動かすために必要なパワーが、最大筋力の3分の1になるのが理想ですから、そういう筋力をもった人を選べばいい。あるいは、必要とされる力が最大筋力の3分の1くらいになるようにトレーニングをして、筋力を伸ばしていきましょう、ということになるわけですね。
(構成:本島燈家)
東京大学教授
