日本経済新聞 関連サイト

ようこそ ゲスト様

日経 Gooday

ホーム  > スポーツ・エクササイズ  > “筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学  > 運動パフォーマンスにおける筋の力学的パワー  > 2ページ
印刷

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

運動パフォーマンスにおける筋の力学的パワー

第13回 筋肉の性能を引き出すには、最大筋力の30%の負荷が最も効率的

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

パワーのピークは最大筋力の30~35%

 では、筋肉の力学的パワー(仕事率)を求めてみましょう。パワーとは1秒間当たりに筋肉がどのくらい仕事をするかということですから、最も単純な計算式は力×距離÷時間になります。仮に筋肉が出す力が一定だとすると(等張力性条件)、力は時間に依存せずに一定になるので、力×(距離÷時間)。距離÷時間は速度ですから、等張力性条件のもとではパワー=力×速度ということになります。

 前回では肘の屈筋で調べた力-速度関係のグラフを掲載しましたが、この双曲線状のグラフができていれば、あとは力(横軸)と速度(縦軸)をかければ、自動的に力とパワーの関係をグラフにすることができます。これは下図にあるように、鍋を伏せたような、上に凸の放物線を描きます。このグラフからもわかるように、等尺性最大筋力を発揮しているときは、力は最大でも速度がゼロなのでパワーもゼロ。また、無負荷最大速度のときは、力がゼロなのでパワーもゼロになります。

図 ヒト筋の力−速度関係から得られる力−パワー関係
(石井、1994より改変)
[画像のクリックで拡大表示]

 動作に関わる筋肉が増えて複合関節動作になると、話は複雑になるのですが、肘を曲げる、膝を伸ばすといった単関節動作においては力-速度関係はきれいな双曲線になり、そこからパワーを導き出していくと最大筋力の30~35%くらいの力を出しているときにパワーがピークになることがわかります。これは、ほとんどすべての筋肉に共通している特性です。

筋肉の性能をフルに発揮させるには?

 ということは、筋肉という組織を最も効率よく使う、筋肉の性能をフルに発揮させるというエンジニア的な観点から負荷の設定を考えると、それは最大筋力の30~35%の負荷ということになります。例えば、自転車で速く走ろうとする場合は、最大筋力の30~35%になるようなギアを選ぶのが、最も効率的といえます。

 パワーが大きいということは、筋肉が一定時間にたくさん仕事をするということ。これは「筋力発電」のような話にも発展していきます。省エネを狙って、自転車をこぐことで自宅の電力をまかないたいと考えたとしましょう。ピーク電力を高くしたい場合は、ペダルの重さをこぐ人の最大筋力の30~35%になるように工夫すればいいわけです。ギアを軽くしてスピードを高めすぎてもダメですし、逆にギアを重くしてゆっくり力を出すようにするのもダメ。3分の1くらいの力が一番いいのです。

 前回も触れましたが、ある機械に適合したモーターを探すときも、このような視点をもつことが重要です。モーターの力-速度関係は筋肉と違って双曲線ではなく直線状になり、最大のパワーが発揮されるのは、そのモーターがもつ最大の力の約50%になります。ですから、その機械を動かすために必要な力が、そのモーターの最大の力の半分くらいになっていると、目的にフィットしたモーターということができます。

 人間を動力として使うことを考える場合も、基本的な戦略はモーターと同じ。その機械を動かすために必要なパワーが、最大筋力の3分の1になるのが理想ですから、そういう筋力をもった人を選べばいい。あるいは、必要とされる力が最大筋力の3分の1くらいになるようにトレーニングをして、筋力を伸ばしていきましょう、ということになるわけですね。

(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。

先頭へ

前へ

2/2 page

RELATED ARTICLES関連する記事

スポーツ・エクササイズカテゴリの記事

カテゴリ記事をもっと見る

FEATURES of THEMEテーマ別特集

  • 宴会で「尿酸値・血糖値・中性脂肪」を上げない賢い飲み方

    年末年始や年度の変わり目など、宴会が増える季節に、楽しくお酒を飲みながらふと頭をよぎるのが、「体重の増加」と「気になる検査値への影響」ではないだろうか。暴飲暴食が続くとさまざまな検査値に影響が及ぶ。今回は、働き盛りの世代に身近な「尿酸値」「血糖値」「中性脂肪」を上げないための、宴会での上手な飲み方・食べ方のコツをまとめた。

  • 青魚のDHAやEPAで、血管を若返らせて、メタボも抑制!

    サバ、イワシなどの「青魚」の健康効果が注目されている。青魚にたっぷり含まれるDHAやEPAは、血管を若返らせ、メタボを抑制したり、認知症のリスクを下げる効果も期待できる。手軽に食べられる「サバ缶」や「イワシ缶」も人気で、カルシウムもしっかりとれるため、骨粗鬆症の予防にもなる。

  • 老化を左右する血管! 若返りのポイントは?

    体の中に縦横無尽に張り巡らされた「血管」をよい状態に保つことは、健康を維持するため、そして老化を防ぐために極めて重要だ。では、強い血管をキープし、老化した血管を若返らせるには、何をすればいいのだろうか。本特集では、2万例を超える心臓・血管手術を手がけてきたスペシャリストに、血管の若さを維持する秘訣と、血管を強くする運動法・食事法を聞いていく。

テーマ別特集をもっと見る

スポーツ・エクササイズSPORTS

記事一覧をもっと見る

ダイエット・食生活DIETARY HABITS

記事一覧をもっと見る

からだケアBODY CARE

記事一覧をもっと見る

医療・予防MEDICAL CARE

記事一覧をもっと見る

「日経Goodayマイドクター会員(有料)」に会員登録すると...

  • 1オリジナルの鍵つき記事鍵つき記事がすべて読める!
  • 2医療専門家に電話相談できる!(24時間365日)
  • 3信頼できる名医の受診をサポート!※連続して180日以上ご利用の方限定

お知らせINFORMATION

人生100年時代プロジェクト

SNS

日経グッデイをフォローして、
最新情報をチェック!

RSS

人気記事ランキングRANKING

  • 現在
  • 週間
  • 月間

NIKKEICopyright © 2019 Nikkei Inc. All rights reserved.