日経グッデイ

“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

1つのトレーニングで「あれもこれも」と過剰な期待をするのは禁物!

第34回 筋トレで1つのメニューで鍛えられるのは1パートのみ

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回からはトレーニングに直接関わる内容を紹介していきます。石井先生によると、トレーニングを行う際には、理解しておくべき大前提があるそうです。それはいったい何なのでしょうか。

1つのトレーニングによる効果は1つしかない

あるトレーニングをすることで、筋肉だけでなく、外観もお肌も…といろいろな効果を同時に望みがちだが、現実に求めていいのは1つだけだ。(©PaylessImages-123rf)

 前回までは筋線維の基本的な性質を中心に解説してきました。今回からは、いよいよトレーニングに直接関わる内容へと移っていきます。

 まず、トレーニングを行う際に理解しておくべき大前提を書いておきましょう。それは、「1つのトレーニングがもつ強い生理学的効果は1つである」ということ。 例えば、筋力を高めるトレーニングをしたときに起こることは筋力の増強であり、必ずしもスポーツ競技力の向上ではありません。筋力トレーニング自体も、1つのメニューで鍛えられるパートは1つの部分(メニューによっては複数の場合も)なので、それ以外のことを求めてはいけません。こういう考えはそれなりに浸透していると思いますが、「このトレーニングをすると、こんな効果もあり、あんな効果もある」といった過剰な宣伝が行われることもあるため、誤解してしまうケースも少なくないと思います。

 これさえやれば筋力はつくし、外観上の変化もあるし、競技力もアップするし、健康にもいいし、お肌もツヤツヤになるし…といったものを誰もが望んでいるでしょう。しかし現実は、1つのトレーニングに求めていいものは1つだけ。別のことを望むのであれば、それを目的とした別のトレーニングをする必要があるのです。そして、それぞれのトレーニング効果の組み合わせによって、最終的な結果を考えなければいけません。まずはそういう認識をすることが大事だと思います。

トレーニング効果を生み出すために必要なこと

 では、トレーニング効果を最大限に引き出すためには、どのようなことを考えればいいでしょうか。

 1番目に必要なことは、現在の体力的要素を正しく分析して、今何が必要か、「どの筋肉を」「どのくらい」強化しなければいけないかという目的・目標を、なるべく具体的に設定すること。

 2番目は、1番目に掲げた目的を達成するために最適なトレーニングは何かを考え、それを行うこと。

 3番目は、そのトレーニングのメカニズムや効果を、ある程度説明できるようにすること。感覚的によさそうだからとやるのはNGです。

 4番目は、トレーニングの効果測定と評価を適切に行い、順調に伸びているのか、改善点はないか、次のステップとして何を取り入れればいいか、などを考えること。

 上記の4つを常に意識し、これらを繰り返していくことが重要です。そして1番目に設定した目標まで到達すれば、まずはOKとする。例えば、膝の伸展筋力を20%強くしたいという目標を立て、3カ月間トレーニングをしてその数値をクリアできれば、そのトレーニングは“成功”ということになります。

 ただし、前述したように、それが最終的に競技成績に結びつくかというと、それはこのトレーニングの責任の範疇外。このトレーニングではどこまでカバーできて、どこまでいけば成功と考えられるのかということを、しっかり見極めて行う必要があります。

トレーニング効果を測定する4つの基準

 トレーニング効果を正確に捉えるには、4番目の測定と評価のやり方が大切となります。では、どう測定すればいいのかというと、その基準は下記の4つに分けられます。

【1】1RM筋力(最大挙上負荷重量)
【2】等尺性随意最大筋力
【3】等速性筋力
【4】等張力性短縮速度(力-速度関係)

【1】は、トレーニングに直接的に関係する最も単純な指標。正しい挙上スタイルで1回持ち上げられる最大の重量のことです。

【2】は、握力計や背筋力計でおなじみの測定方法ですが、身近な機械では握力と背筋力しか測れないという難点があります。工夫をすればほかの種目にも応用が可能かもしれませんが、測定としてはやりにくいといえます。

【3】は、筋肉の動的な性質を、等尺性も含めて測ることができるので、筋肉の機能の詳細な変化を分析することができますが、等速性ダイナモメーターという専門の機械が必要になります。ジムなどに置いてある場合もありますが、まだまだ目にするチャンスは限られています。

【4】は、力-速度関係を等張力性条件という特殊な条件の下で測るもので、筋肉の特性をくまなく測定するには最適です。問題は測定の仕方が難しいこと。やはり専門の機械が必要になりますが、まず一般の施設には置いてありません。研究機関のような特殊な場所でないと測定できない、と考えていいでしょう。

 ということで、現場レベルで筋力を測定するには、1RM筋力を利用するのが一番。しかも1RM筋力は、トレーニング関係の学術論文でも“筋力”の基準として記述することができるものです。1RMさえしっかり測っていれば、それは筋力を測っているということになるわけです。次回はこの1RM筋力について、もう少し詳しく説明していきたいと思います。

1つのトレーニングに求めていいものは1つだけ。
別のことを望むのであれば、
それを目的とした別のトレーニングをする必要がある。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。