“筋肉博士”石井直方先生(東京大学教授)が、筋肉のメカニズムや機能を毎回わかりやすく解説していきます。今回は、筋収縮を関節の回転運動に変えるメカニズムについて取り上げます。筋収縮が直線運動であるのに対して、関節は回転運動を担う器官。これらがどのように連携して最大のパフォーマンスを生み出しているのかを考えてみます。
上腕二頭筋が発揮した筋力を 肘関節の回転力に変換
前回(参照記事:「最大筋力を発揮するために一番適した長さとは」)では筋線維の長さによって最大筋力が変わることを解説しました。では、それはそのままマクロな運動、あるいは筋肉そのものの特性にもなるでしょうか? 答えは否。必ずしもそうではありません。そこが筋肉の収縮の面白いところです。
これまでは筋線維が関節を回す力を中心に話をしてきましたが、実際の運動を見てみると、筋肉はモーターのように関節をぐるぐる回すように動くわけではなく、関節をまたいで走っています。そして、筋収縮は直線運動ですが、関節は回転運動。したがって、筋肉の発揮する直線的な力活動を、関節周りの回転力に変換するメカニズムがあります。
肘関節を完全に伸展しているとき(解剖学的にいう0度)は、関節が伸びているのとほぼ同じ方向に上腕二頭筋が走っているので、どんなに力を出しても肘は曲がりにくいということになります。関節を圧縮する力は大きくても、回転力は小さいはずです。
しかし実際には、上腕二頭筋は肘の回転中心よりもやや上についているので、肘が完全に伸びていても少しは回転方向への力が生まれます。わずかでも関節が曲がれば、筋肉が出した力の成分は回転力に反映されてくるので、どんどん肘が曲がってくるわけです。
力発揮ということでいえば、肘関節の角度が90 度になったときが一番効率がよくなります。これは前腕の垂直方向に力が発揮されていて、最も力のロスが少ない状態です。上腕二頭筋が一定の筋力を持続的に発揮すると仮定した場合、0度の状態からどんどん力が伸びていって、90 度でピークになり、180 度でまたゼロになる。理論的には左右対称のサイン波(正弦波)になります。
このように、筋肉が出す力のベクトルに対して前腕がどこを向いているか、それが実際の運動においては重要なファクターとして効いてきます。つまり、前回で説明した筋線維の長さに加えて、直線方向の筋収縮を関節の回転運動に変えるメカニズムという2つの要素によって、肘を曲げる力は変わってくるのです。