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“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学

筋肉を増やせば、糖尿病、肥満、冷え性を予防・改善できる?

第33回 熱産生のカギを握る注目のタンパク質「サルコリピン」

 コーチング・クリニック(ベースボール・マガジン社)

肥満や糖尿病の予防にも

 前述の研究の延長として、やはりサルコリピンをノックアウトしたネズミに高脂肪食を与えるという実験も行われました。脂肪がたくさん含まれるエサを与えると、ネズミはみるみるうちに太っていく。そうして極度の肥満になってしまうことがわかりました。一方、サルコリピンを持っている正常なネズミに同じ食事を与えても、少し太る程度でした。

 つまり、筋肉が熱を作れないということは、太る原因にもなってしまうのです。しかも、その状態でグルコースを与え、血中のブドウ糖の濃度の変化を調べると、そのネズミは糖尿病に近い状態になっていることがわかりました。

 ここまでのことを整理すると、サルコリピンが足りないと、冷え性になり、肥満になり、糖尿病になりやすくなる。逆にいうと、これらはすべて筋肉を増やすというアプローチによって、予防、改善できるということになります。今後は「ダイエット」の観点からも、サルコリピンが注目されていくことは間違いないでしょう。

 筋肉をつけて基礎代謝を高めることがダイエット効果につながるという理論は、既に浸透しつつあります。ただ、それは基礎代謝が筋肉量に比例するという状況証拠からいわれてきた考え方であって、決定的な証拠があったわけではありません。今回のサルコリピンの発見によって、実際に筋肉がどのように熱を出すかが証明され、その熱産生が減ると肥満や糖尿病になるということが具体的に示されました。これは非常に有力な証拠になると思います。

 サルコリピンは速筋、遅筋のどちらにより多く含まれているのか。あるいは、サルコリピンそのものを増やす方法はあるのか。今後はそうした研究がさらに進んでいくと思われます。「サルコリピン」という単語には、しばらく注目しておく価値があるでしょう。

サルコリピンを増やしていけば、
熱を生みやすい、寒さに強い体質になっていく。


(構成:本島燈家)

石井直方(いしい なおかた)さん
東京大学教授
石井直方さん 1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学教授(運動生理学、トレーニング科学)。理学博士。力学的環境に対する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究している。日本随一の筋肉博士としてテレビ番組や雑誌でも活躍。著書は『筋肉まるわかり大事典』『トレーニング・メソッド』(ともに小社刊)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など多数。
“筋肉博士”石井直方先生の連載が1冊になって好評発売中!
『石井直方の筋肉の科学』
B5判、140ページ、1500円+税 発行/ベースボール・マガジン社

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この記事は、ベースボール・マガジン社「コーチング・クリニック」からの転載です。

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