熱産生の主役は筋肉の中にあった
その後、筋肉にも同じ性質のタンパク質があることがわかりました。これは3番目に見つかったUCPなのでUCP3<スリー>と呼ばれ、やはり筋肉の活動なしで熱を生み出します。
1グラム当たりの熱の生産量で比較すると、筋肉は褐色脂肪よりも小さくなりますが、筋肉そのものの量が褐色脂肪よりはるかに多いため、全体で見るとよりたくさんの熱を発生させていると推測されます。ということで、UCP3が発見されてから、褐色脂肪よりも筋肉への注目度が高くなってきています。また、UCP3は遅筋線維より速筋線維のほうに多く含まれていることもわかりました。ただ、速筋中の速筋であるタイプIIxにはミトコンドリア自体が少ないので、タイプIIaが非震え熱産生の主役だということになってきたのです。
遅筋線維にもミトコンドリアは多く含まれていますが、UCP3が少ないので熱の生産は大きくありません。遅筋線維には小さな力発揮を持続的に長時間行わなければならない使命があるので、無駄に熱を出してしまってはエネルギーの浪費になって困るからでしょう。日常生活で重要な役割を果たしている遅筋線維は、エコにつくられているといえるでしょう。
UCPを超える(?)さらなる新発見
筋力トレーニングをすると、速筋線維の中でタイプIIx→タイプIIaの移行が起こり、タイプIIaの割合が高くなります。そういう状態では熱産生が高くなっているため、じっとしているだけでもエネルギーが消費されやすくなっていると考えられます。
逆に、長時間にわたる有酸素運動、あるいはマラソンのような持久的なトレーニングをたくさんこなしている人は、UCP3の活性がきわめて低くなることもわかっています。長時間の運動に対応できるように、無駄なエネルギーを消費しない、燃費のいい筋肉をつくっておいたほうが都合がいいからでしょう。
ということは、有酸素運動をたくさん行って減量した人は、その時点で運動をやめたりすると太りやすくなる危険性があるということ。ですから、特にリバウンドに気を付けたほうがいいということになります。トップレベルのマラソン選手が練習をやめた途端に太ってしまうケースがあるのも、この仕組みが大きく関連しているのだと思われます。
ここまでのことは、5年くらい前までにわかったことでした。熱産生に関してはUCPを中心として、今後もさまざまな研究が進んでいくだろうと考えられていました。ところが、つい先日(2012年下半期)、さらに影響力の強そうな、全く新しいタンパク質が見つかったのです。
科学誌『ネイチャー・メディスン』に正式に発表されたばかりなので、まだ専門家でも知らない人が多いかもしれませんが、そのタンパク質―「サルコリピン」こそ、不動の主役になる可能性を秘めているのです。
次回は、そのことについて説明していきましょう。
日常生活で重要な役割を果たしている遅筋線維は
エコにつくられている。
(構成:本島燈家)
東京大学教授

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