筋力発揮と関節角度
肘を屈曲させるという単純な単関節動作で調べてみても、関節角度によって筋力は大きく変わります(図2)。個人差もありますが、110度あたり(完全伸展を180度とする)で肘を屈曲させる力はピークに達し、それより肘を伸ばしても曲げても力が小さくなってくる。筋肉にはこのような性質があるということを理解することが重要です。
スポーツでは全身の筋肉を使った筋力発揮が求められます。当然ながら、さまざまな関節を動かすことになります。それぞれの関節には最大の力を発揮するための理想的な角度があり、それぞれの関節回転力の合算として大きな力が出るわけです(もちろんパフォーマンス全体を考えると、単純な合算というわけではないでしょうが)。
筋力発揮能力は関節角度に依存する
各関節を適切なポジションでフルに機能させる―これを全身で考えると、姿勢が非常に重要になります。力を発揮するための姿勢が適切であれば、それぞれの筋肉がポテンシャルを最大限に発揮できるのです。
これはスポーツの現場に限らず、日常動作でも同様です。例えば、物を押すといった行為をとってみても、足の開き方、膝の曲げ方、腰の角度、肩や腕の使い方……いくつもの要素が一体となって最終的に発揮される力が決定しています。唯一の解答があるとは断言できませんが、限りなくベストに近い形はあるでしょう。その形に近づくほど、その人は力の出し方がうまいということになります。
物を押すときの一般的な姿勢は、さまざまな経験や試行錯誤に基づいたものなので、おそらく大きく間違っていることはないでしょう。そして、人類の長い歴史のなかでその姿勢が導き出された背景には、「静的な筋力発揮能力が関節角度に依存する」という基本的なメカニズムがあるのです。
(構成:本島燈家)
東京大学教授
